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1994.2 No.2  発行 1994年2月27日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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衝突のショック吸収「壊れやすい」電車
スキー靴の改善を
防水スプレー事故続発
強調表示“待った”業種を超え規制の「網」
「良い」表示は半分程度(注意・警告/国民生活センター調査)
米最高裁が再審査/本田の懲罰的PL賠償
カー用品メーカーPL法成立をにらみ商標無断使用へ対策
消費者窓口相次ぎ開設/製薬会社PL法制定化に対応


1月の新聞記事より

■衝突のショック吸収「壊れやすい」電車

 「踏切事故撲滅キャンペーン」を進めるJR東日本は、衝突のショックから乗客らを守る衝撃吸収型電車の開発を始めた。JR東日本ではこれまで衝突のショックに対し電車の強度を増すことで社内の乗員、乗客の安全を確保しようとしてきた。しかし平成4年9月、千葉県香取郡のJR成田線踏切でダンプカーが電車に衝突した事故では、電車がダンプカーを約65メートル引きずり脱線。運転士が壊れた車両に閉じこめられ死亡し、乗客多数にけが人がでた。
 同社技術陣はこの事故の調査結果から「万一の場合、強固すぎる車体より衝撃を吸収する壊れやすい車体の方が人命を守れる」と設計方針を変更。
 実際には、先頭車両の運転席、客席部分は従来通り強固にし、その外側を柔らかい材質で覆った二重構造にしたり、自動車のバンパーを応用したものを取り付けたりすることなどが考えられるという。

 安全技術を考える上で大事な点があるようです。クラッシャブルであればダンプカーをいつまでも引きずらず、電車も脱線しなかったであろうとの考え方です。
 関係者に聞いたところ「旧国鉄でも昔からクラッシャブルにして安全を確保する考え方はあったが、受け入れてもらえなかった」とのことでした。
 牛や馬が引く荷車との衝突を考えてきた時代から車両は強固であり続けてきたわけですが、ここにきてようやく工学的に原因を判断できるようになったようです。
 設計者というのは一つの理論に執着しがちな面がありますが、通常のデザインレビューのシステムで安全確保に対応する難しさがあるようです。
 このようなときに「セイフティレビュー」として別の評価システムを組み入れることができれば、安全レベルに到達するまでの時間が短縮されるのでしょう。「世の中に絶対というのは無い」と考え、技術を過信せず幅広く世の中の情報を収集しながら研究を続ける態度が必要だと思います。

■スキー靴の改善を

 プラスチック(ポリウレタン)製のスキー靴が滑走中に突然破損するなどの事故が相次いでいるため、国民生活センターは10日までに業界団体の日本スポーツ用品工業協会に製品の材質、構造の改善や注意表示の徹底などを申し入れた。
 同センターの調べでは、87年1月から昨年末までに全国の消費生活センターから事故報告があったのは計57件。スロープを滑走中や階段を駆け上がったときなどに突然、靴にひびが入ったり、つま先から割れるなどして転倒、けがをした人もいる、という。事故が起きたスキー靴の使用年数は購入後1年未満が2件あったものの、大半が5年以上だった。
 同センターは日本スポーツ用品工業協会に申し入れ書を提出。この中で@劣化しにくい素材への改良A負荷がかかりやすい部分の改善B使用可能期間や使用上の注意点の表示、などを求めた。
 スキー靴最大手の日本ノルディカは、8年前に破損の例を聞いて原因を調査し、素材の変化のほか、高温多湿の中で保管したり、シェル(靴の外側)に無理な力が加わることなどが理由と判断。「以後は素材や技術、検査などを改善した。説明書への「急な乾燥を避けてほしい」「材質の経年変化で破損が起こりうる」といった表示など最善の努力をしている」という。

 スキー靴が割れるというのは普通の人は考えたこともないことだと思いますが、このような考えづらいことに対しては注意表示が大事になります。
 いままでメーカーが行ってきた表示の意味することが、ユーザーにはあまり理解されていなかったようです。「わずかでも亀裂に気付いたら、すぐ使うのをやめてください」等の具体的な警告が無かったことはメーカーのいう「最善の努力」とはならないでしょう。

■防水スプレー事故続発

 閉め切った室内や車内で防水スプレーを使い中毒症状を起こす問題で、年始年末に長野県下のスキー上の宿泊施設で中毒事故が相次いだことが分かり、県衛生部は12日までに、宿泊客に注意を促すよう観光協会などに要請した。事故件数など実態把握も遅れており、メーカーを含めた関係者の安全対策が急務になっている。
 厚生省は昨年12月20日、都道府県や業界団体に注意喚起を通知。これを受け、県は同28日、各保健所や販売業界に要請した。が、事故が後を絶たないため、県は6日、スキー客に「スプレーはできるだけ屋外で使う」、「屋内で使う場合は換気を」、「気分が悪くなったら使用中止」などの注意を促すよう、各保健所を通じスキー場関連の宿泊施設などにも要請した。
 厚生省の研究班は防水効果があるフッ素系樹脂とその他の溶剤が相互に作用して中毒を引き起こしていることなどを突き止めたが、中毒発生の詳しいメカニズムは分かっていない。

 スプレー製品の香りが良くなってきているため、吸い込んだ場合の危険が予見できなくなっているのが大事な点だと思います。
 危険な物の表現(文字、絵、音、色、光、振動、香り等)は、人間工学的な配慮が必要になるわけです。

■強調表示“待った”業種を超え規制の「網」

 「天然」「自然」「地球に優しい」など、消費者の健康志向や本物志向に訴える表示や広告が食料品や日用品に目立っているが、公正取引委員会はこうした「強調表示」には根拠のあいまいなものが少なくないとして、包括的な基準づくりに着手する方針を固めた。食品や酒類、化粧品など多様な業種と商品を対象に共通の基準を設定する考えで、公取委が異なった業種や商品ににまたがる表示規制に乗りだすのは初めて。来年度中には表示・表現ごとの基準を設定し、これをもとに関連業界に共通の公正競争規約作成を働きかけていく意向だ。

 デメリット表示はなるべくださずに耳障りの良い言葉で商品の品質に付加価値をつける方法は、消費者団体などからもよく指摘を受けていることではあります。業界自らが公正な競争原理を認識し基準を作成して「消費者のための製品を提供しています」と、PRを行った方が良いと思うのですがどうも日本では、「行政が基準を作るまでは勝手だ」、「ボランティアで規格作りなどやりたくない」と考えるようです。
 このようなお国柄のため、国際的な品質規格ではイギリスのBS5750をベースにしたISO9000規格が作られてしまい、その認証を取るのに苦労し、多額のお金をイギリスに払わざるを得ない状況です。
 自社の規格を業界標準にして日本の標準規格にし、さらには国際規格にまで持っていければ自分たちは今まで通りに仕事をするだけで無駄な経費も少なくなるというものです。また、消費者に対しても非常によいPR材料となります。ですから欧米の企業では戦略としてボランティアで規格作りを積極的に行っているわけです。
 ISOでは次なる目標としてすでに環境管理関連の規格制定の活動を始めていますが、わが国はここでも主要なメンバーとしての活動はできないでいます。

■「良い」表示は半分程度(注意・警告/国民生活センター調査)

 国民生活センターが注意・警告表示について、初の実態調査を行った。調査は製造後約5年以内の商品を「食品」「電気製品」「家具」「衣料品」「玩具」など十種の商品群に分類した上で、計約1300の商品を対象に消費者生活相談員によるアンケート形式で昨年2月に実施。
 表示が「良い」と評価されたのは全商品のうち半分程度。商品群別では「良い」警告表示は電気製品、ガス・灯油器具、自転車など乗り物のそれぞれの取扱説明書だけで、危険予防にとってもっとも重要な商品本体の表示が「良い」と判断されたのは4割にとどまった。
 表示の内容などで「不十分」の評価がもっとも多かった項目は、幼児に危険を知らせる警告やその内容の具体性。玩具など子どもが使用者となる商品でもこの点は不十分で、同センターは「商品の性格から見て問題」としている。また、分かりやすい絵や図を使った表示は少なかった。
 一方、総合評価も高いガス器具は「危険を避ける行動を示している」で10種の商品群中、もっとも評価が高かった。

 製品の安全を確保する方法として、最後の手段としての警告表示がありますが、警告を知らしめるための表現が問題になります。どのような危険がどの程度であるのか、また回避する手だては何か、具体的にしかも分かりやすく記載しなければなりません。
 今回の調査で表示の問題点が多く指摘されたということは、多くの企業が「法的な基準さえ守っていればよい」としてユーザの安全についての真剣な検討を行わないできた結果だといえます。
 ラベルを新たに追加するのであればコストアップになりますが、表現をわかりやすくすることは設計段階で検討すればよいのでコストアップにはならないのですが‥‥。
 取扱説明書も警告ラベルも製品の一部であり製品本体と同じレベルの設計をし、評価する必要があります。なぜならば製品での安全確保ができなかったために、最後の手段として表示で対応するからであります。表現内容を重視すべきことについては、「安全技術のいたらない部分をユーザーにお願いして対処してる」という認識を持つべきでしょう。
 また通常のデザインレビューでは、警告ラベルのあることが大事で、その内容・表現は設計担当者に任せきりということも多いのが現状かと思います。安全評価のセイフティレビューをシステムとして取り入れることの重要性がここでもあるようです。
 PL制度導入で今後消費者に対する啓蒙・指導が行政やマスコミにより活発に行われてくるのは明らかであり、企業は表示について積極的な対応を行わなければならないでしょう。

■米最高裁が再審査/本田の懲罰的PL賠償

 米最高裁は14日、スポーツ用三輪自動車の転覆事故で高額の懲罰的損害賠償を求められた本田技研工業がオレゴン州最高裁の判決を不服として上告していた件で、賠償額が適切だったかどうか再審査する決定を下した。

 米国におけるPL問題の特異な点として知られている懲罰的損害賠償は、非常に高額の賠償請求が課せられるため企業経営を圧迫するとして是正の動きがでています。陪審制の国アメリカではこの「見せしめ的」な賠償額は被害者に同情のあまり高額になることが多く、また大企業ほど標的にされてしまいます。
 今回のケースでは、570万ドルのうち500万ドルがこの懲罰的賠償にあたり、その賠償額が適正であったかどうかを再審査する最高裁の決定は注目する必要があります。最高裁が懲罰的損害賠償の妥当性を検討する姿勢を見せたことは、PL法の行き過ぎを是正する動きをさらに加速させることになるでしょう。

■カー用品メーカーPL法成立をにらみ商標無断使用へ対策

 ランプなどカー用品メーカーのピアは「PIAA」ブランドを無断で使用したとして愛知のメーカーを相手取り、名古屋地方裁判所にシートカバーやシートクッションなど12品目の販売停止の仮処分の申請をした。

 PL法制定の動きに対して非常に健全な対応を行う動きがでてきたことになります。自分の権利をきちんと主張することで社会の健全化が促進され、結果として消費者を粗悪品から守る形になります。「環境に優しい」「消費者保護の姿勢」を具体的に社会の仕組みの中で作り上げる企業努力は、消費者が正しく評価しなければならないし、そのことが企業にとっての大事なPR方法となるでしょう。

■消費者窓口相次ぎ開設/製薬会社PL法制定化に対応

 製薬会社が消費者の問い合わせや相談に対応する窓口を設けるケースが増えている。エーザイは先に開設した消費者相談窓口が好評で、製品開発や広報活動と連動した組織に衣替えする。また、中外製薬も総合的な消費者相談窓口を設置する。
 エーザイの窓口に寄せられた情報はコンピューターで管理、「思わぬニーズや使用方法の発見につながる」として、製品企画などに生かしていく。サービス体制も強化する方針だ。
 中外製薬は今月新たに設けた「お客様相談室」を通して、大衆薬の使用方法に対する相談や事故防止を訴える。製品広告やパッケージにも相談室の電話番号を表示する。

 これもPL法制定化の動きに対する企業の対応ですが、消費者のためでもあり企業にとっては消費者情報の収集にも一役買っているようです。

終わりに

 表示に関する問題はこれからますます出てくるでしょうし、企業も研究していることでしょう。表示内容、表現、文字の大きさ等、法律で定められたものは最低限の守るべきことであり、消費者の立場での分かりやすい方法とはどのようにするのかを人間工学的にも考える必要があります。企業はその道のプロであり、また情報も一番持っているからです。
 PLを意識した動きがいくつかありましたが、企業は冷静に何を行うべきかを考えて実行する必要があるようです。「法律の主旨は消費者の保護だけで、企業は負担を強いられている」と考えるのは間違いであります。
 「ISO9000に対応したらこんなに良くなった」と同じように「PLに対応したらこんなに良くなった」というプラス思考でPL法制定化の動きに対応する企業が増えれば企業・消費者双方にとっての利益につながることでしょう。

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