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1994.3 No. 3  発行 1994年3月27日

発行人 中澤 滋  ASP研究所長野県松本市梓川梓3072-12 Tel. 0263-78-5002


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女川原発差し止め請求破棄/仙台地裁判決「安全立証会社に責任」
炉心溶融でも「安全確保」
プルトニウム水飲めます?動燃に書簡【ワシントン23日共同】
昭和電工のPL訴訟問題「年内に全面和解」
津のゴルフ場事故 警報機故障放置
PL制緩和 米、年内に成立も/企業の賠償負担軽減
顧客薬歴をシステム化
環境監査制度事業所に導入/三洋電機
情報公開に関わる動き
環境管理システム・監査


2月の新聞記事より

■女川原発差し止め請求破棄/仙台地裁判決「安全立証会社に責任」

 宮城県牡鹿郡女川町、牡鹿町の東北電力女川原子力発電所の周辺に住む女川町議阿部宗悦さん(67)ら住民14人(うち1人死亡)が「地震や人為的ミスで重大事故が起きる危険がある」と、東北電力に同原発1号機の運転差し止めと2号機の建設差し止めを求めた訴訟の判決が31日、仙台地裁で言い渡された。塚原朋一裁判長は「同原発の平常運転時の放射線放出は無視し得る程度。チェルノブイリ事故のような大事故が発生する恐れがあるとはいえない」として住民側の請求を棄却した。住民側は控訴する方針。また同裁判長は「電力需給の観点から本件原発の必要性が存在する」と述ベ女川原発の必要性を認めた。その一方で判決は「この訴訟は十分な資料が提出されない状況の下で審理が行われた。国の原子力政策などが合理性を有するといえるためには必要かつ十分な情報が国民に提供されなければならない」と現状以上の情報公開の必要性についても言及した。
 判決はまず、環境権、人格権に基づく差し止め請求を[適法」とした。特に環境権については「実定法上明文の根拠はない」としながら「民事裁判の審査対象を有しないとはいえない」とした。裁判所はこれまで、環境権に基づく権利保護の請求を認めていなかった。続いて、平常運転時の放射線放出について、低量の被ばくでも放射線障書発生の恐れがあり、さらに運転によって外部に放射線が放出されていることを認めたうえで「同原発が放出している放射線は障害発生の可能性が無視し得る程度のもの」とした。事故の可能性については原子力安全委員会が行った安全審査は合理性を有する」としたうえで、「安全対策が講じられており、女川原発では炉心溶融などの大事故が起こる恐れがあるとはいえない」とした。判決は「原発の危険性の立証は原則として原告が負うべきだが、原発の安全性は電力会社が根拠を示して立証する必要がある」とした。

 今回の判決は電力会社側の主張をほぼ受け入れた形になっていますが、環境権に基づく権利保護の請求を初めて認めたことと、「原発の安全性は電力会社が根拠を示して立証する必要がある」としている点が注目されます。
 これは、企業の内部資料を安全性の立証のために公開を求めるものです。情報公開の流れが少しづつではありますが浸透してきている現れだと思います。公害や原発の問題ではなかなか話し合える場がありませんでしたが、企業責任の範囲・程度を決めていくのにいい動きが出てきたと言えるでしょう。また企業にとってはアセスメントで何を行ってきたかが検証されることになります。

■炉心溶融でも「安全確保」

 米国スリーマイル島原発で起きた「炉心溶融」などの過酷事故(シビア・アクシデント)対策を検討してきた電力業界が、その骨子をまとめたことが1日明らかになった。「日本では過酷事故は起こるはずがないから、対策は不要」とされてきたが、欧米で対策をとる国が増えたことなどから、方針を転換した。早ければ来年にも対策に着手するが、わが国の原発の半数を超す沸騰水型炉(BWR)では、放射能を含んだガスを抜く「穴」を格納容器に設けるなど、大がかりな変更になる。
 「過酷事故の起きる確率がきわめて低いことに変わりはなく、あくまで安全性を高めるための対策。放出ガスは格納容器の底の水を通すので、ヨウ素やセシウムなどの放射性物質は10分の1以下に減る」(電力業界)と説明する。
 対策の検討に加わった東大工学部の近藤俊介教授は「想定にないから対策を考えないでいいのではなく、あらゆる事故の対策を事前に考えておくのは当然。たとえ過酷事故が起きても、環境に大きな影響が出る確率は相当減る」と評価している。

 「過酷事故の起きる確率がきわめて低いことに変わりはない」と言っているものの諸外国の対応を見習う動きが出てきたのは遅いとはいえ評価できると思います。確率がいかに低いといっても、データには仮定に基づく推定にすぎない部分が必ず含まれているものです。またその評価を行ったときから現在までの間にデータの再審査が行われていないかもしれません。
 過酷事故という言葉はあまりなじみがないのですが、「過酷事故を想定する」ということは原発の今ある安全性評価基準の見直しまで含まれるということになるのでしょう。

■プルトニウム水飲めます?動燃に書簡【ワシントン23日共同】

 オレアリ米エネルギー長官が日本の動力炉・核燃料開発事業団のプルトニウム安全宣伝ビデオの回収を求めた問題で、米民間シンクタンクの核管理研究所は23日、動燃理事長は自分でプルトニウム入りの水を飲む覚悟がないのなら長官の忠告に従うべきだ、との書簡を動燃に送ったと発表した。
 書簡は、動燃がプルトニウムは飲んでも対外に排出され健康に影響無いとしているが、米国の研究によると、飲み込んだプルトニウム1グラムのうち1ミリグラムは消化管から吸収される恐れがあると指摘。理事長がテレビに出演してプルトニウム入りの水を飲んでみせる覚悟がないなら、ビデオを回収せよと警告している。

 動燃がプルトニウムの安全性について行った「プルトニウム入りの水を子どもが飲む宣伝ビデオ」に対する米国の非難が続いていますが、現在得られる全ての研究結果、情報を正確に評価するエンジニアの目で安全性についての立証ができないのであれば「安全ではないかもしれない」との認識を持つのが普通の考え方であります。プルトニウムの海上輸送、高速増殖炉「もんじゅ」に対する海外から寄せられる日本の核エネルギー行政への非難がある中、なぜこのようなビデオを作ったのか疑問に思います。動燃がビデオ制作にふみきった根拠となる安全性データでの反論が求められます。

■昭和電工のPL訴訟問題「年内に全面和解」

 昭和電工の三好副社長は15日、記者会見し、同社が製造した必須アミノ酸の一つ「L-トリプトファン」により健康を害したとして米国で訴えられているPL問題について「94年中に全面和解できる」との見通しを明らかにした。訴訟が始まった90年以降に費やした金額は、累計で約1560億円に上る。

 「安全の問題は経営の問題」と、改めて考えさせられます。

■津のゴルフ場事故 警報機故障放置

 津市内にある津カントリークラブのゴルフ練習場で、ゴルフ練習中のキャディーの打ったゴルフ球が頭に当たり死亡する事故があった。練習場を横切る管理道路を車で走行中、開けていた運転手側の窓から球が飛び込み、右頭部に当たるという偶然に偶然が重なった。
 このゴルフ場では1990年にオープンしたとき、練習場に入る手前の両側2カ所に危険防止の警報機を設置した。運転手が車を降りて作動させると、練習者の後ろにあるランプがついてブザーが鳴り、車の通行を知らせる仕組みだ。
 ところがその警報機が壊れており、放置されたままになっていた。関係者の話では、一、ニ年前から壊れていたらしい。
 津署によると、球を打ったキャディーは、車が通行しているのに気付かなかった、と話している。せっかく付けた警報機が機能していれば、未然に防げた事故と言える。

 警報機が壊れたままに放置されていたことに対し、当ゴルフ場の安全管理の認識が著しく低いことが分かりますが、世の中のレジャー施設についても同様な認識しかないのが現状のようです。また実際に管理道路を車で通行する人たちも「当たることはないだろう」と思っていたのかもしれません。
 新聞記事では、運転手が警報機を作動させたかどうかは不明です。いくつか考えてみますと、「警報機を作動させた」、「警報機に気がつかず作動させなかった」、「警報機に気がついたが(面倒なので)作動させなかった」、「警報機が壊れているのをあらかじめ聞いていたので作動させなかった」など人間の心理的背景も要因にあげられると思います。
 安全対策を完全に行うのは難しいことですが、安全設計審査をどの程度行ったかが問われる事故でした。

■PL制緩和 米、年内に成立も/企業の賠償負担軽減

 【ワシントン3日】米議会は2日、米国の製造物責任(PL)制度を改めるため、全米統一のPL制度を確立する法案番議を開始した。判例に基づき各州がバラバラに厳しいPL制度を設けていることが米企業の競争力を損なっているとして、損害賠償の負担を軽滅するのが目的だ。米下院エネルギー商業委員会商業小委員会は2日、全米製造業者協会(NAM)や消費者団体などの代表を招き、1987年から途絶えていた「PL公正法案」の公聴会を再開した。上院も昨年末の委員会審議を踏まえ、5月にも本会議で改革法案を採決する予定だ。

 米国のPL事情で一番困っていたのは米国企業であり、PL保険、情報収集・訴訟対策、弁護士報酬料等、日本企業以上に相当な額の出費があったわけです。日本企業にとっても歓迎すべき動きですが、米国の経済力に新たな追い風になるやもしれず、より機能的な訴求力のある、使いやすく安全で、環境にも配慮した製品が求められてくるでしょう。

■顧客薬歴をシステム化

 小諸市、北佐久地区の保険薬局17店で作る小北保険薬局事務協同組合(小諸市)が、顧客の薬歴管理を中心としたシステム構築に力を入れている。
 同組合が導入しているのは「調剤薬局向けレセプト管理システム」。顧客ごとに保険調剤の報酬請求明細書(レセプト)発行用の処方データを入力。月ごとの集計に基づいた社会保険、国民健康保険など各保険別のレセプト印刷のほか、会計処理、顧客の処方歴、過去の処方内容の検索ができる。89年にMS-DOS版「源内Jr」、92年にユニツクス版「源内」が完成した。
 3月にはパソコン向けの[源内Jr」用に、処方データだけでなく大衆薬や化粧品なども入力でき、窓口で顧客名簿として全薬歴が管理できるサブシステムが完成する予定。薬名からその薬を服用している顧客名の検索もできるようにし、副作用情報などを顧客に提供していく。同組合では「無駄な薬を省くためにも薬歴のコンピーター管理を進めていきたい」としている。

 このようなサービスが顧客に求められていたので非常によい動きだと思います。ユーザに認知させ、カードによるシステムの導入が行われることを期待したいと思います。
 しかしながら病院、医者、製薬会社、行政の関与がないようです。このような動きに対して、市町村の補助金、製薬会社のシステム構築とデータの提供、そして病院・医者の協力までつながれば非常に良いのですが‥‥‥。

■環境監査制度事業所に導入/三洋電機

 三洋電機は国内外の事業所を対象とした環境監査制度を導入する。2月から国内の生産、研究開発拠点全15事業所を対象とした監査を開始、国内外のグループ会社にも順次広げる考えだ。国際標準化機構(ISO)による環境監査国際ルール策定を見越したもので、独自に策定した基準に基づいて実施する。

 大手企業による環境管理制度の導入が進んできました。すでに数年前から導入してきた企業もありますが、これから本格的な対応を考える企業がほとんどだと思います。その理由として環境問題を経営的な要素としてとらえ、海外企業の取り組みが伝わる中での海外でのビジネス対応、ISOの動向などが挙げられると思います。



トピックス

■情報公開に関わる動き

 PL法制定に向かって政府内での作業が進んでいるようですが、企業の過失を立証するための内部資料を「開示」する請求は、先の答申内容によると含まれないことになっています。企業寄りと言われて議論がいろいろ出ましたが、企業は安心せずに書類管理の徹底を進める必要があるようです。
 というのも、民事訴訟法の改定の動きがあり、来年の秋をめどに作業が進められているようだからです。少額訴訟の改定が含まれており、PL法では扱わない文書提出の案件がどのように法律に取り入れられるかを注視する必要があります。訴訟手続の法律の改定によって、裁判所が情報公開を求めてくることもあり得るからです。

■環境管理システム・監査

 ISOが進めている環境管理システムなどについての記事が雑誌に掲載され、書籍としても出版され始め、また講演会も増えてきています。
 環境に優しい製品が環境に優しくない工場から作り出されるようでは、トータルとして社会が受けるデメリットを考えていないことになり、企業としての責任が問われてきたわけです。
 昨年の11月の新聞記事ではISO9000のシステム監査が導入されるとの記述がありましたが、どのような制度になるかは実際のところまだ未定であります。しかしながらISO9000の考え方は、どのような監査対象であっても利用できるベースを持っていますので、すでに認証を取得された企業は環境管理プログラムを整備するに当たり、品質、環境、安全に対して同一の基本監査システムを持つのが良いでしょう。

終わりに

 安全や品質問題、さらには環境問題が企業にとって避けては通れないものになってきましたが、このような社会の流れの中からメッセージを感じとる必要があると思います。企業が社会と共存するためには、生産物自体の品質・安全から工場全体の環境に与える影響までもが問題となってきたわけです。
 この次は従業員の労務管理的な環境、あるいは企業の利益が社会や人々にどのように還元されているのかを評価する動きが問題になるかもしれません。生産者と消費者、企業と社会、経営とそれを支える従業員・株主などの関係で、今まで以上に公正さが求められてくるのは確かなことだと思います。


 

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