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1994.4 No. 4  発行 1994年4月27日

発行人 中澤 滋  ASP研究所長野県松本市梓川梓3072-12 Tel. 0263-78-5002

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TV出火製造物責任認定/大阪地裁松下に損害賠償命令
フロン全廃へ国は積極姿勢を
患者側の勝訴確定/東京じん肺訴訟
NO2、疾病と因果関係8社の責任認定/倉敷公害訴訟 岡山地裁判決
PL法立法化の動き


3月の新聞記事より

■TV出火製造物責任認定/大阪地裁松下に損害賠償命令

 製品自体の欠陥が原因でテレビから出火し事務所を全焼したとして、大阪府八尾市の「太子建設工業」(畑本登社長)が製造元の「松下電器産業」(大阪府門真市、森下洋一社長)に製造物責任を問い約730万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が29日、大阪地裁であった。水野武裁判長は「火災原因はテレビ本体からの発火で、テレビには欠陥があったと認められる。製造者が欠陥について、過失がないと証明しない限り、過失があったと推認され、賠償責任を免れない」として松下に約440万円の支払いを命じた。
 原告側弁護団によると、家電製品の事故で製造物責任を認めた初の判決。
 消防庁の統計では、昭和61年度から平成元年度までの間、テレビを原因とする火災は毎年50件前後発生していた。判決によると、火災は昭和63年3月8日、八尾市南太子堂のマンション1階の太子建設工業事務所から出火、約40平方。の事務所を全焼した。判決はまず、出火原因について出火時、事務所にいた従業員の「テレビ付近から黒煙が上がっていた」との証言や他の原因を否定する消防の報告書などから「電源コードの取り扱いを誤りコードがショートし発火した」との松下側主張を退け、「テレビ本体の発火が原因」と認定した。次に、テレビのような製品の場合、消費者は安全性について製造者を信頼して購入することから、「製造者には高度の安全確保義務があり、この義務に反したら製造物責任を負う」と判示。
 さらに欠陥について、「通常の利用方法で社会通念上、製品に要求される安全性を欠けば欠陥があると言うべき」と認定基準を示した。その上で、欠陥の存在が証明されれば、メーカー側が原因を解明して過失がないことを証明しない限り、過失があったと推認される」と判断した。こうした基準を基に購入してから約八カ月、通常の利用で発火したことから「テレビには欠陥が認められる」と認定。「欠陥の原明は不明だが、松下側が原因を解明していない以上、欠陥のあるテレビを販売した過失が推認される」と結論付けた。

 非常に注目すべき判決が出たわけですが、9日後の4月8日には「松下、控訴を断念」との記事が紙面に大きく取り上げられていました。
 松下がどのように出るのか注目される中、呆気にとられるような結末でしたが、世の中の流れは確実に消費者サイドに立って動いていると感じられます。産業界の中には、「松下は控訴してもおそらく勝つだろう」との見方もあったようですが、この結果をどのようにとらえるべきか、これからの企業活動に少なからず影響を残していくでしょう。
 「PL法」が無い現行の不法行為法であっても、被害者救済の道を示した今回の判決はきわめて先進的なものであります。今まで被害者は、欠陥原因を解明して製造者の過失を立証しなければならず、その立証ができずに敗訴することが多かったわけです。今回のケースでは、テレビを通常の利用方法で使用していながら、発煙、発火したと考えることで「製品に欠陥があった」と認めています。さらに「製品に欠陥があるということは製造者の過失が推認できる」とし、これを覆すには、「製造者が自らの過失がないことを立証する必要がある」としています。
 今までの被害者、製造者の立場が全く逆になった判決が、同じ法理の下で示されたということで、「これまで判事は何をやっていたのだろう」といぶかしがる向きもあろうかと思いますが、製造物責任法制定の動きがいろいろの波及効果を生んでいる一つの現れだといえます。
 今回の判決内容は、これから成立されてくる「製造物責任法」よりも消費者保護の立場をより明確にしていますが、今回限りなのか、リーディングケースとなり新たな流れを生み出していくのかは次の事例を待たねばなりません。また、条件が少し違いますが、同じ大阪地裁で争われている「シャープの欠陥TV訴訟」の成りゆきも気になるところです。
 判決には「製品としての性質上、テレビには合理的利用の範囲内における絶対的安全性が求められる。」との記述もあり、企業側から見れば「ちょっとすごいな」という部分もあります。「今回の判決を下した判事は特別過激な方ではなく、温和な方だと聞いているが、判決要旨を見る限り怒っているようにも受け取れる。松下の法廷論争のやり方で何か問題があったのでは?」との意見も聞かれます。
 PL法の議論が盛んになっていますが、現行法上でもこのような判決が出るということは「PL法はもっと先進的でなければならない」とされ、法律制定後の裁判にも影響が出てくるものと思われます。つまり閣議決定されたPL法案の条文は、ずいぶんと簡単になっており、多くの判断は裁判所に委ねられているからです。

■フロン全廃へ国は積極姿勢を

 フロンなどオゾン層破壊物質の全廃時期を来年末に控えて、日本政府はこのほど、食品の冷蔵ショーケースやコンテナなど三分野で冷媒などとして使用する関係物質の全廃措置を「適用除外」とするよう求める申請を、オゾン層保護のためのウィーン条約の事務局(ナイロビ)に提出した。地球の環境保全に率先して取り組み、世界に貢献したいと願うわが国として、残念な対応といわねばならない。ウィーン条約を受けてオゾン層を破壊する化学物質の具体的な削減スケジュールを定めた「モントリオール議定書」の締約国会議がこの秋、ナイロビで開かれる。
 議定書には、健康や安全など「必要不可欠な分野」に限って、「技術的、経済的に実用可能な代替品が入手できないこと」などを条件に摘要除外の特例措置が設けられている。ところがわが国の申請理由は、通産省や業界団体によると「冷蔵ケースなどフロンを使う設備には、設置後間もないものも多い上、ユーザーの多くが零細企業なので転換が遅れている」というものだ。

 まさにこの社説の通りだと思います。
 ISOの環境管理の動向には敏感になっているものの、本当に地球環境に対する危機感がないのかもしれません。世界の流れに乗り遅れまいとし「とりあえず形だけでも」と繕っているだけのように思えます。開発途上国思考というのか、「テイク&テイク」のようで寂しいものです。
 企業や業界が行政に泣きつき、自らの努力を惜しんでいるようでは世界的競争力を失い、産業の衰退にしかならないのは明らかであります。消費者から見た場合、このような企業の戦略は負の経済活動でしかなく、回り巡って経済的負担を強いられるのでは納得のいかないところです。
 行政は、このようなときにこそ諸外国と協調できる、あるいは各国から評価されるような業界リードを行い、必要な企業に対する支援を行うことがもとめられます。
 最近相次いで宣伝している大手家電メーカーの「'96特定フロン規制対応冷蔵庫」についても批判があり、「断熱材に使われるHCFCという代替フロンがオゾン層を救うかのごときイメージを作っている」というものです。HCFCは、特定フロンほどではないにしてもオゾン層を破壊します。そのため2020年には全廃される物質であり、昨年11月に開かれたモントリオール議定書締結国会議ではEUの他16の国から、HCFCを前倒しに全廃する宣言書が出され、デンマークでは2002年、ドイツでは2000年で廃止にするとしています。
 また、「オゾン層を破壊しないからと、冷媒用に使われだしたもう一つの代替フロンHFCは、温暖化を招く物質であることを忘れてはいけない」という意見もあります。
 技術立国といわれている日本の家電メーカーの多くは、「冷蔵庫に関して、代替フロン以外に有効な物質がない」と主張しています。ところがヨーロッパでは、代替フロンを一切使わずに、炭化水素を冷媒と断熱用の発砲材に使った冷蔵庫が発売されています。これはオゾン層破壊のない、温暖化効果もほとんどない冷蔵庫で、ドイツの最大手4社は、今年中に全機種の85%を転換することに決めています。

■患者側の勝訴確定/東京じん肺訴訟

 東京都西多摩郡日の出町の日鉄鉱業松尾採取所で働き、重度のじん肺にかかった下請け会社の元作業員3人が、日鉄鉱業(東京都千代田区)と下請け会社を相手に約2億円の損害賠償を求めた「東京じん肺訴訟」の上告審判決が22日、最高裁第三小法廷であった。阿部恒夫裁判長は、会社側に安全配慮義務違反があったとして日鉄鉱業に約7700万円の支払を命じた二審判決を指示、会社側の上告を破棄する判決を言い渡した。全国のじん肺訴訟で患者側の勝訴が確定するのは初めて。

 この2月に行われた長崎じん肺訴訟では、慰謝料額および時効の判断で被害者救済に大きく前進した最高裁判決が出されました。その結果、現在係争中のじん肺訴訟にも大きく影響が出ると予想されていました。勝訴確定の今回の判決により、企業は他の訴訟対応の見直しを行い、早期解決による被害者救済をめざすべきでしょう。

■NO2、疾病と因果関係8社の責任認定/倉敷公害訴訟 岡山地裁判決

 岡山県倉敷市の水島コンビナート周辺にすむ公害病認定患者と遺族計53人が、川崎製鉄などコンビナート企業8社に、大気汚染物質の一定基準以上の差し止め(排出規制)と総額約16億4000万円の損害賠償を求めた倉敷公害訴訟の判決が23日午前、訴訟から10年4カ月ぶりに岡山地裁であった。将積良子裁判長は「被告企業は一体となって十分な公害防止対策をとらずに操業を開始、継続した過失がある」として企業8社の連帯責任を認定、原告計41人に総額約1億9000万円の賠償支払いを命じた。排出差し止めの訴えは「被告のなすべき方法が特定されていない」として却下した。
 大気汚染による健康被害の企業責任を認めた倉敷公害訴訟判決は、過去の主な大気汚染訴訟の一審判決を踏襲し「企業は大気汚染に責任あり」との司法判断を確定的とした。また4大大気汚染の一審では最後の今回の判決で、4裁判とも一審での企業責任認定が出そろった。

 「企業は大気汚染に責任あり」との見方が、今日の社会での常識として定着したことになります。
 他の訴訟も含めて被告企業は、この判決を機に住民が求めている和解交渉に応じるべきでしょう。そのような対応の中から「社会のために努力する企業活動」をアピールするのが環境問題に対する産業界全体の姿勢としてもプラスになるでしょう。
 また、1月の川崎訴訟では認められなかった二酸化窒素(NO2)と健康被害の因果関係を認めたことも注目され、今後の国の自動車排ガス規制強化についても対応が迫られます。

トピックス

■PL法立法化の動き

 4月12日閣議決定され、国会に提出された製造物責任(PL)法案は、予定より早いスケジュールでありましたが、政権の混乱による時間的遅れを配慮して早い審議入りをめざした結果のようです。
 専門家の意見を聞く機会がありましたので法案のポイントをいくつか拾ってみました。


(定義)

第二条 この法律において「製造物」とは、製造または加工された動産をいう。
― ここで「動産」とは、有体物を言うので、ソフトウェアや電気などのエネルギーは含まないと考えられます。ワクチンなどは除外される条項がないので含まれると考えます。


(製造物責任)

第三条 製造業者等は、その製造、加工、輸入または前条第3項第二号若しくは弟三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りではない。
― PL法は、拡大損害があった場合に製品を含めて損害を求めるもので、製品だけが破損した場合は契約法を適用します。


(免責事由)

第四条 前条の場合において、製造業者は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
1 当該製造物をその製造業者等が引き渡したときにおける科学または技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
― 国生審の答申では「入手可能な最高の科学・技術知識の水準」となっていましたが、「入手可能‥」や「最高の‥」が削除されています。これは、裁判所の見解に幅を持たせているようです。
2 当該製造物が他の製造物の部品または原材料として使用された場合において、その欠陥がもっぱら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。
― 部品メーカーが「言われた通りに作った」と抗弁しても免責されず、「欠陥が生じたことについての過失がないこと」を立証しなければなりません。


(期間の制限)

第五条 第三条に規定する損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および賠償義務者を知ったときから3年間行わないときは、時効によって消滅する。その製造業者等が当該製造物を引き渡したときから10年を経過したときも、同様とする。
― 「当該製造物を引き渡したとき」というのは製造工場出荷時であり、企業は出荷日を立証できる書類管理が必要になります。


(民法の適用)

第六条 製造物の欠陥による製造業者の損害賠償の責任については、この法律の規定によるほか、民法(明治29年法律第89号)の規定による。
― PL法は民法にプラスされるので、10年(PL)が切れても過失責任においては20年が適用されます。

終わりに

 PL法案はかなり簡単な条文となっているので、今後の裁判の中からその解釈を積み上げていくようになります。つまり条文に書いてないからといって、企業に有利であるとは必ずしも限らないわけです。司法の解釈の流れを見る限り、消費者側に立った解釈がいろいろ出てくると思います。したがって企業としては、基本である本質安全を求めながらの判例研究を行っていく必要があります。



 

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