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1994.7 No.7  発行 1994年7月27日

発行人 中澤 滋  ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12 Tel. 0263-78-5002

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PL法が成立/1年間の周知期間/施行は来年夏に
PL法施行来年7月に
健康機器基準作り見送り
豊胸シリコーン訴訟/米で和解の見通し/同国裁判で最高の賠償
 額
TOPIC


6月の新聞記事より

■PL法が成立/1年間の周知期間/施行は来年夏に

 製造物の欠陥による事故から被害者を救済することを目的とした製造物責任(PL)法が、22日の参院本会議で可決、成立した。本会議での採決に先立ち、参院商工委員会は@輪血用血液製剤による被害者を救済するために、特別の救済機関の設置に努めるA消費者を素早く救済するために、裁判以外の紛争処理体制を整える―― など9項目を付帯決議した。製造物責任法は1年間の周知期間を経て、95年夏から施行する。
 法案の審議は3日に始まったが、自民党の一部から輸血用血液は法律の対象からはずすべきだという意見が出たため、審議に時間がかかった。しかし、消費者重視の同法案が廃案になると国民から強い批判を受けかねないという判断が与野党ともに働き、最終的には政府案通りで決着した。

■PL法施行来年7月に

 政府は、欠陥製品による消費者の被害救済を目指す製造物責任(PL)法を95年7月1日から施行することを決めた。消費者は企業が来年7月から出荷する製品について、製品の欠陥を理由に賠償を求めることができる。PL法は企業の賠償責任を問える期間を原則として製品出荷後10年とし、薬害など被害が長期間たって分かるものは損害発生後10年と定めている。

 PL法がようやく成立しました。ご存じの方も多いかと思いますが以下に法律の全文を記載します。

製造物責任法

(目的)

第一条 この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体または財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。


(定義)

第二条 この法律において「製造物」とは、製造または加工された動産をいう。 2  この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される仕様形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
3  この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。
一  当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)
二  自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者
三  前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情から見て、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者


(製造物責任)

第三条 製造業者等は、その製造、加工、輸入または前条第3項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りではない。


(免責事由)

第四条 前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
一  当該製造物をその製造業者等が引き渡したときにおける科学または技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
二  当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。


(期間の制限)

第五条 第三条に規定する損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から3年間行わないときは、時効によって消滅する。その製造業者等が当該製造物を引き渡したときから10年を経過したときも、同様とする。
2  前項後段の期間は、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じたときから起算する。


(民法の適用)

第六条 製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責任については、この法律の規定によるほか、民法(明治29年法律第89号)の規定による。

附則

(施行期日等)

1  この法律は、公布の日から起算して1年を経過した日から施行し、この法律の施行後にその製造業者等が引き渡した製造物について適用する。
(原子力損害の賠償に関する法律の一部改正)
2  原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)の一部を次のように改正する。
  第四条第三項中「及び船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和50年法律第94号)を「、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和50年法律第94号)及び製造物責任法(平成6年法律第85号)」に改める。
次に参議院商工委員会で採決された付帯決議を紹介します。(衆議院商工委員会での付帯決議もほぼ同趣旨のものです。)

製造物責任法案に対する付帯決議

平成6年6月22日

 本法は、製造物の欠陥によって生じる責任のあり方を基本的に改めるものである。施行後の本法の運用が円滑に行われるとともに、製造物の欠陥による被害の防止と救済の実行を高めるため、政府は、本法施行に当たり、次の諸点について適切な処置を講ずべきである。
一  立法の主旨や条項の解釈等、当委員会の審議を通じて明らかにされた内容について、消費者、中小企業者等関係者に十分周知徹底されるよう努めること。
二  欠陥の存在、欠陥と損害との因果関係等について、被害者の立証負担の軽減を図るため、国及び地方自治体の検査機関、国民生活センター等、公平かつ中立的な民間検査機関等の検査態勢の整備に努めるとともに、相互の連携強化により、多様な事故に対する原因究明機能の充実強化を図ること。
三  被害の迅速かつ簡便な救済を図るため、裁判外の紛争処理体制の整備を図ること。
四  欠陥の早期発見、再発防止を図る観点から、事故情報の収集体制を整備するとともに、企業秘密やプライバシーの保護及び情報収集面への影響にも配慮しつつ情報公開に努める等、事故情報の積極的な提供を図ること。
五 輸血用血液製剤の欠陥については、その使用が緊急避難的なものであること、副作用等についての明確な警告表示がなされていること、世界最高水準の安全対策が講じられているものであること等、当委員会の審議を通じて明らかにされた製品の特殊性を考慮して総合的に判断されるものであることを周知徹底すること。
六  輸血用血液製剤による被害者の救済については、その特殊性にかんがみ、特別の救済機関等の設置に努めること。
七  中小企業者の負担を軽減するため、製品安全対策、クレーム処理等について相談・指導体制の充実を図るとともに、製品安全対策の推進のための積極的な支援を行うこと。
 また、下請事業者に不当な負担を及ぼすこととならないよう十分配慮すること。
八  国の製品安全規制については、経済・社会の変化や技術革新に対応し、適時適切に見直すことにより、危害の予防に万全を期すること。
九  製品被害の未然防止を図るため、製造者が添付する製品取扱説明書及び警告表示について適切かつ理解しやすいものとなるようにするとともに、消費者の安全に係る教育、啓発に努めること。

 これらの付帯決議は政府に対して求めているものであり、今後の政府の対応を見守る必要があります。しかしながら中小企業の支援策や下請事業者に対する配慮の具体的施策がすぐにでてくる保証はありませんし、また政府の対応だけで企業のリスクが大幅に軽減されることもないでしょう。したがって企業は、政府をあてにせず自ら自社のPLリスクを把握し、やるべきことを行う必要があります。
   企業寄りといわれたりもするPL法ですが、おおかたの企業にとっては負担が増すと考えていることでしょう。
 しかし考え方次第とも思えるのですが、「安全性確保は絶対条件、負担は当然だ」とし、いかにその負担を少なくするかに知恵を出して、その結果企業間競争力が増すことを見返りとすればよいと思います。
 消費者と企業のフェアな関係を構築するのに役立つPL法は、長い目で見れば双方の間に信頼関係を生むと考えられます。
 正当な製品評価をする消費者が増えるということは、技術力で評価をして欲しい企業にとっては必ずメリットになることでしょう。

■健康機器基準作り見送り

 健康志向が強まる中、スボーツクラブや家庭で人気を集めている健康機器。安全性や精度、表示に問題のあるものも多く、厚生省の健康増進関連機器検討会(座長・宮下充正東大教授)が6日までにガイドライン作りを求める報告書をまとめたが、同省は「規制緩和の時代に規制強化は不適当」と見送りを決めた。
 消費者保護のために必要とされた措置が、規制緩和を理由に見送られるのは極めて異例。検討結果が無視された格好の検討会メンバ−からは「利用者保護のために作成を求めたのに、見送りはおかしい」と不満の声が出ている。検討会に使われた予算は約240万円。
 スポーツクラブや一般家庭に普及している健康機器の大半は薬事法の規制を受けないため、事実上の野放し状態で「健康のために買ったのに、逆にひざを痛めてしまった」といった苦情が消費生活センターなどに寄せられている。厚生省の調査でも、約80種類が販売されている自転車エルゴメーターの場合、最大酸素摂取量の計算方法がメーカーによってまちまちだったり、ベルト式ランニング装置や歩数計の精度にむらがあるなど、品質・精度の面などに問題点が見つかっている。
 このため学者やスボーツ団体、メーカー関係者などで構成する検討会が昨年から1年間、これらの機器の普及状況などを調査。「機器の精度や耐久性、表示方法などについてガイドライン作りを検討する必要がある」との報告書をまとめた。だが厚生省の結論はガイドライン見送り。「新たな規制強化は時代に逆行し、予算もつかなかった」というのが理由で、当面は業界団体に自主的な勉強会の設置などを求めて対応する方針だという。
 検討会メンバーを努めた国民生活センターの小池信子さんは「見送りは初耳」と鷲いた様子。安全基準もないからガイドラインを求めたのに、規制緩和を理由にするなんて。規制の必要があるものは規制されるべきだ。業界自体が考える自主規制なんて不本意」と不満の声を上げている。

 消費者の立場に立った立法・行政が求められてきた中でPL法が成立し、一歩前進したのですが、これはいったいどうしたというのでしょうか。
 正当な理由が見つからないので「規制緩和に逆行」では子ども相手にごり押しするようなもので、厚生省の非近代的な考え方、態度を露呈したようです。
 規制緩和とは、「規制が必要でなくなったもの」、「規制のために消費生活に差し障りのあるもの」を緩和するのが目的であり、必要な規制をしないというのでは「野放し」を是認することを表明しているわけです。厚生省もそんなことは百も承知のはずですし、このような「みっともないこと」を言わざるを得なかった背景には、「何かある」と感じるのは私だけではないでしょう。

■豊胸シリコーン訴訟/米で和解の見通し/同国裁判で最高の賠償額

 【ニューヨーク18日時事】豊胸シリコーン埋め込み手術で健康を損なったとして、被害者がシリコーンの製造メーカーを相手取り損害賠償を求めていた集団訴訟で、原告の女性の大部分が和解案に同意する見通しとなり、同訴訟が和解により決着する可能性が一段と強まった。原告側の複数の弁護士が18日までに明らかにした。
 米ダウ・コーニング社など被告側は既に、総額42億ドル(約4326億円)の基金を創設し、豊胸手術の被害者の補償に充てるとの和解案に同意している。
 同訴訟で和解が成立すれぱ、製造物責任(PL)訴訟としてはもちろん、集団訴訟としても、米国の裁判史上で最高の賠償額での和解となる。
 和解案は裁判所の承認を必要としており、裁判所は公聴会を開いた上で、同案に問題がないか最終決定を下すが、「裁判所は和解条件を公正なものと判断する可能性が強い」(弁護士の1人)。
 和解の成立後には、原告側の女性は1人当たり20万〜200万ドルが(約2060万〜2億600万円)を受け取ることができる見通し。

 日本でも被害者がいた場合、どのような影響がでてくるのか、またその場合厚生省が消費者のために何をするのか興味のあるところです。

◆TOPIC

 米国での話ですが、政府がたばこ会社を訴えたケースを紹介します。


 米ミシシッピ州政府は5月23日、喫煙に関する患者の急増で健康保険の支出が増えたのは、タバコ製造・販売会社の責任だとして、米大手のたばこ会社フィリップ・モリス、RJRナビスコなど13社を相手に損害賠償と販売停止を求める訴訟を同州ジャクソン群裁判所に起こした。
 米国では最近、たばこを吸わない市民の間で禁煙キャンペーンが起こり、個人や集団がたばこ会社に賠償を求めるケースが相次いでいるが、州政府による請求は初めて。
 訴状の中で州政府は「たばこ産業は、たばこに中毒性があり、死を招く有毒なものであることを知りながら、悪意を持って大衆をだました」と非難している。

 結果がどうなるか分かりませんが、米国の社会の公正さと言いますか、行政の支出に対して行政自ら厳格なまでに追求をする態度は大したものだと感じます。

終わりに

 PL法の制定により、今まで企業が消極的であった「デメリット表示」の取り扱いが議論に上るようになりました。「デメリット表示があると製品が売れない」という強迫観念めいた認識を企業が持っていたのですが、消費者はそれほど気にしていたのでしょうか。
 確かな裏付けのないままに「他社がやらないから自分もやらない」という営業的考えが優先し、消費者の安全を省みなかった姿勢があったという事実に対して反省が求められます。


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