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1994.8 No.8  発行 1994年8月27日

発行人 中澤 滋  ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12 Tel. 0263-78-5002

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PL法に備え中小支援/通産省・中小企業庁 低利融資・税制優遇
 で
PL対策で指針づくり/通産省 企業向け、製品表示など
PL保険の好調続く/来夏の法施行で拍車も
AT車異常巡るPL訴訟/消費者側、実質勝訴で和解 フィアットな
 ど212万円払う
「ブレーキ欠陥原因」/御代田のトレーラー暴走事故 遺族1億
 2400万円賠償請求
破損相次ぐプラスチック登山靴
ISO9000審査登録3機関を認定/JAB


7月の新聞記事より

■PL法に備え中小支援/通産省・中小企業庁 低利融資・税制優遇で

 通産省と中小企業庁は95年7月の製造物責任(PL)法の施行に備え、製品の安全性向上などに取り組む中小企業への支援策を7月中にも実施する。94年度の予算と税制改正で決まったもので、その内容は製品の安全性にかかわる品質向上や検査のために設備投資する中小企業に対し@中小企業金融公庫や国民金融公庫が年4.3%の低利で貸し付ける「製品安全性向上資金」融資制度を設けるA設備投資額の7%の税額控除、または30%分の特別償却を認める ―― など。
 PL法は製品の欠陥で被害を受けた消費者を救済するためにメーカーの賠償責任を定めた法律で、さきの国会で成立した。消費者の被害がはっきりしていれば、メーカーに過失がなくても責任を問うことができる。法律は製造物の範囲や欠陥の定義を細かく定めず、裁判官の判断や解釈を重視している。
 このため企業の関心は高く、大企業は品質管理を徹底させたり、法務部門で訴訟に備えPL法専門の検討チームを作ったりするなど体制を整えつつある。しかし中小企業は設備投資をする体力に乏しいなど体制整備が進んでいない。このため中小企業に的を絞った支援策を手がけることにした。

 日本でのPL法の施行を来年7月にひかえて、大企業は各社対応を打ち出し始めています。今までPL問題に積極的に取り組んでいたと思われる大企業であっても、それは海外対応だけで、日本国内のPL問題には法律がないので「積極的な対応はしていなかった」というのが現実でした。
 中小企業ではなおのことPL問題に積極的に動くことはなかったようですが、大手取引会社がこれからどのような取引条件を求めてくるかは重大な関心事でありましょう。
 取引上の必要性からISO9000シリーズの認定を取得した企業も増えてきましたが、今また同じように契約時の案件として各企業がPLリスクをどのように扱うか、その対応が求められています。
 「金銭的な問題でPL予防対策がなかなか取れなかった」という企業にとっては今回の低利融資・税制優遇措置は歓迎できることでしょう。

■PL対策で指針づくり/通産省 企業向け、製品表示など

 通産省は製品の欠陥などで被害を受けた消費者を救済する製造物責任(PL)法が95年7月に施行されるのを受け、企業にわかりやすい製品の使用表示の方法や取扱説明書の作り方を指導する指針を策定する。すでに学識経験者や経済団体、業界団体の代表からなる検討組織「表示・取扱説明書適正化委員会」を発足させており、95年3月をメドに指針をまとめ公布する。
 委員会は指針づくりに向けた検討項目として@製品の高度化、複雑化に対応したわかりやすい表示方法A日本の国際化や人口の高齢化に配慮して一目でわかる絵やマークの使用、文字の大きさの設定、製品に表示する位置の指定B万が一の事故に備え、けがや火災などの被害を最小限に抑える応急措置――などを挙げている。通産省は委員会の報告を踏まえ検討項目に対する一定の基準を指針に明記する考えだ。
 特に事故につながる恐れのある誤った使い方に対する警告表示については、業種を問わず表示を統一する考えだ。また警告表示は取扱説明書の前面に出すことや誤った使い方をした場合に起こる事故について具体的に表示することも検討する。

 どの程度の内容になるかはまだ分かりませんが、使えるガイドラインとなることを期待したいと思います。
 基本的には各国の安全規格やガイドラインを参考にするのでしょうが、国際規格で勧められている表示(絵文字、アイコン)は採用して欲しいものです。文字の大きさについては、アルファベット文化圏での規格をそのまま採用するのではなく、漢字とひらがな・カタカナの配分比をも含めて検討しなければなりません。プラスチック等にモールド表示する場合や、字と背景色との関係、光のあまり当たらない部分での表示、弱視の人のための配慮を含めて諸外国に紹介できるガイドが期待されます。
 企業にとっても参考にできるところは参考にして、自社の製品の使用方法を一番知り得る立場であるので、さらに分かりやすい表現、配置等を研究して欲しいものです。このガイドに沿って行った表示がPL裁判での免責事由とはならないことを知った上で、あくまでも製品自体での安全確保に努めることを疎かにしてはなりません。
 英文に翻訳された日本企業の取扱説明書が分かりづらく不評を買っている原因のほとんどが「元の日本語の文章がいい加減である」ということですので、分かりやすい文章表現まで考えるきっかけになればよいのですが‥‥。

■PL保険の好調続く/来夏の法施行で拍車も

 企業の間で生産物賠償責任保険(PL保険)に加入する動きが広がってきた。安田火災海上保険は93年度に契約件数が前年比5.6%、大東京火災海上も6.6%増加した。住友海上火災保険では4月以降、前年比ニケタの伸ぴを示している。欠陥商品による消費者被害の救済を目的とする製造物責任(PL)法がこのほど成立。来年7月の法施行に向けて損保各社は「引き合いがさらに増える」(日本火災海上保険)と予想している。
 PL保険は被保険者(メーカーなど)が生産した欠陥商品が原因で被害が生じたときの賠償金をカバーする。PL保険の発売開始は57年だが、日本でPL制の導入論議が高まった92年ごろから契約件数は増加傾向を示していた。
 加えて最近は、欠陥商品であれば過失の有無を問わずにメーカーに責任を負わせるPL法の理念を先取りした判例がでてきており、メーカーの保険に対する関心が高まっている。

 PL保険がPLリスク対策の一つであるのはその通りなのですが、どうも製品そのものの安全対策が見えない、あるいは組織だって製品安全の考え方を進めていこうというのではない企業もあるようです。PL保険を利用するからには、自社のPLリスクがどの程度なのかトップのポリシーから従業員教育まで、製品自体の安全レベル以外のことまで理解している必要があります。「どんぶり勘定」でもいいのですが、PL保険は損害保険会社の商品を利用するのが一番良い方法とはかぎりません。 要するにPL事故で裁判になった場合、勝訴できるのか敗訴してしまうのか、あるいは賠償金額がどの程度になるかを何で担保するかということなのです。製品自体の技術的な対応、会社全体のシステムでの対応、情報収集・外部への情報提供など、これらでPLリスクを担保したときにどうしても見えない部分を商品であるPL保険で担保するだけのことです。
 ですからPL保険を利用するのであれば、毎年保険料金を引き下げられるよう、PLリスクを「ゼロ」にするための企業努力を惜しんではなりません。
 「うちのPL保険は自前です」、と言える企業が出てきて欲しいものです。

■AT車異常巡るPL訴訟/消費者側、実質勝訴で和解 フィアットなど212万円払う

 「オートマチック(AT)車を運転中に異常な走行状態になったのは、車の構造的な欠陥が原因」として、大阪市内に住んでいた消費者が伊・フィアットオート社などを相手に、約490万円の損害賠償を求め、大阪地裁で製造物責任(PL)が争われていた訴訟で19日、和解が成立した。フィアット社などが車の購入代金の一部212万円を支払うなど、事実上消費者側勝訴といえる内容。自動車の内部構造の欠陥による暴走をめぐる訴訟では、これまで消費者側が勝訴したケースはなく、消者側の請求にほぼ等しい内容で和解したことが明らかになったのもこれが初めて。
 同地裁は審理過程でフィアット社などに、和解に応じるよう強く勧告していた。
 訴えていたのはカナダ在住(提訴当時は大阪市)の雑貨店経営、村上泰司さん(44)。和解に応じたのはフィアット社のほか、輸入総代理店(東京)と販売店(大阪市)。
 和解調書によると、フィアット社などが車の購入代金540万円のうち、すでに走行していた分の使用料を除く162万円と、村上さん側が裁判で、専門家に技術的な調査を依頼した費用など50万円を支払う。
 また販売店が異常発生後の修理代金として、村上さんに請求していた約39万円についても、支払い義務がないことを認めた。村上さんはフィアット社側に車を返す。
 村上さんは86年12月、フィアット社の「ランチア・テーマ」を購入。90年7月、大阪市内で走行中、急に加速したり減速する危険な状態になった。この際の走行距離は約5万2000キロで、村上さん側は「自動変速機内のATオイルの温度が急上昇し、同変速機内のディスクやプレートが磨耗したため」と主張。これに対しフィアット側は「定期的なオイル交換を怠ったために故障した」などと反論していた。
 村上さん側の立証が終わった後の昨年9月、同地裁が和解を勧告していた。原告側の関根幹雄弁護士は同地裁が車の欠陥を認めることを前提として、和解を進めたと見ている。
 村上さん側は近く、運輸省に対し、同型車のリコールを求める要望書を提出する方針で、フィアット社側が対応を迫られる可能性もある。

欠陥はなかった

 【フィアットなど三社側の服部広志弁護士の話】車に設計上の欠陥は一切なかった。運輸省に輪人総代理店から調査報告書を出しているが、もし欠陥があれば同省が是正の指導をするはずなのに、何もしておらず、現に今も同型車が国内を問題なく走っている。和解に応じたのは裁判所の和解勧告を尊重したからで、原告側の「勝訴的和解」とは理解していない。

 事故にいたらないまでも、購入した車の欠陥に対して消費者が被る不利益を無くす和解が成立しました。裁判所が和解を強く勧告した結果、被害救済の早期解決ができたようです。
 「裁判所の和解勧告を尊重した」と会社側は言っていますが、裁判を続けても原告勝訴になる欠陥事実を裁判所が認めたと見るのが普通でしょう。会社側は、PL事故にならなくて良かったと思うべきでしょう。
 少額訴訟問題を早期に解決して被害者救済に当たる考え方は、先に成立したPL法の精神でもあります。PL法施行後の来年7月以降も、裁判所がリードして、PL訴訟の判例を積み上げていくのは確かなようです。

■「ブレーキ欠陥原因」/御代田のトレーラー暴走事故 遺族1億2400万円賠償請求

 長野県北佐久郡御代田町で92年に起きた大型トレーラーの暴走事故に巻き込まれ、死亡した会社員の遺族が「事故はトレーラーのブレーキ装置の欠陥を放置したのが原因」として、製造元の「いすゞ自動車」(本社東京)など三者を相手に、総額約1億2400万円の損害賠償を求める訴訟を15日、東京地裁に起こした。訴えたのは埼玉県大里郡妻沼町の福田治さん夫妻。
 訴えによると、運送会社の運転手だった福田さんの長男真吾さん ――当時(26)――が同年3月17日夜、御代田町の国道18号をトラックで走行中、下り坂を暴走して来た大型トレーラーによる多重衝突事故に巻き込まれ、死亡した。大型トレーラーの運転手は空気漏れで制動効果が弱まるのに気付いており、事故後の鑑定で「エアパイプが破断し、主ブレーキ装置が一部機能していなかった」と欠陥が明らかになった。

 2年前の事故ですが、納得がいかなかったのでしょう。最近のPL問題に対しての世の中の動きに呼応して、欠陥の存在が明らかになった時点で訴訟を起こしたものだと思います。裁判の結果はどうなるか分かりませんが、このようなケースでの裁判は増えていくのでしょう。

■破損相次ぐプラスチック登山靴

 冬山で愛用者が増えている外国製のプラスチック製登山靴が突然壊れる事故が最近数年間で20件も起きていることが、日本山岳協会や日本勤労者登山連盟など山岳4団体のアンケート調査で20日までに分かった。
 購入後はじめての使用で登山中にバラバラになるケースもあった。4団体は、遭難など生命に関わる事故につながりかねないとして、メーカーや輸入業者に再発防止対策や製造年月日の表示を申し入れた。また通産省に対しても近く検査態勢や安全基準づくりを求める。
 調査は昨年11月から今年5月まで、4団体の会員などを対象に行った。その結果、昭和63年からこれまでに計20件の破損や亀裂の事例が報告された。
 メーカー別の内訳はコフラック社(オーストリア)製9件、スカルパ社(イタリア)製6件、ローバー社(ドイツ)製5件。
 中には、マッターホルンを登山中、両足とも靴が突然真二つに割れて使用不能になり、滑りやすい岩場をインナーブーツだけで下山したケースや、北アルプスで冬季登山中、購入後初使用の靴が両足ともバラバラに破損したケースもあった。
 プラスチック製登山靴は10数年前から普及し始めた。値段は4万〜7万円で軽くて保温、防水性に優れており現在は冬山登山の約9割で使用されている。しかし昨年3月、山岳雑誌に破損例が掲載されて以来同様の報告が相次いでいた。

 ASPニュース2月号ではスキー靴が突然破損するニュースをお伝えしましたが、今度は登山靴でも同様な事故が起きていたわけです。どうもプラスチック製登山靴は5年前後で本体強度が低下する場合があり、消耗品としての認識が必要なようです。
 しかし外観上問題が無くても使用できないということは、消費者にとっては難しい安全管理上の問題が残されてしまいました。

■ISO9000審査登録3機関を認定/JAB

 品質保証の国際規格「ISO9000シリーズ」の審査登録機関を統括する財団法人日本品質システム審査登録認定協会(略称JAB、飯田庸太郎理事長)は8日、JAB認定の3つの審査登録機関を発表した。日本でのISO審査登録制度を取りまとめる公式認定機関として昨年11月に発足したJABが審査登録機関を認定したのは今回が初めて。
 認定を受けたのは財団法人日本規格協会(略称JSA、東京・港、福原元一理事長)の品質システム審査登録センター、日本検査キューエイ(東京・中央、竹内肇社長)、日本化学キューエイ(東京・千代田、宮西博美代表取締役)の3機関。JSAは電気、機械、光学装置、紙・パルプなど8分野、日本検査キューエイは化学製品、金属製品、電気の3分野、日本化学キューエイは化学製品、ゴムやプラスチック製品、金属製品の3分野の品質菅理体制をそれぞれ審査する。

 JABと海外機関との相互承認はまだ実現していませんが、日本における審査登録制度の機能整備が一歩進んだと言えるでしょう。早い時期に各国の認定機関との整合性が図られ、ゆくゆくは何処でどの機関により認定されても国際間の取引で不利にならないことが望まれます。

終わりに

 マルチメディアを利用した様々な実験や議論がいたるところで行われています。ハード的な技術分野の進歩と、その技術を十分利用できるソフトの開発は非常に速いものがあり、情報化社会への基盤整備が着々と行われているように見えます。
 しかし、情報環境とでもいうのでしょうか、権利の保護や犯罪利用の抑制など後進国といわれる日本にとって早急に整備しなければならない分野も多いはずです。いずれにしても消費者の言葉がなかなか聞こえてきませんし、企業も「ユーザー主体」を忘れているようなところが気になります。


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