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1994.9 No.9  発行 1994年9月27日

発行人 中澤 滋 ASP研究所長野県松本市梓川梓3072-12 Tel. 0263-78-5002

 

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PL紛争 被害救済へ対策/企画庁 企業と調整へ専門委
PL対策で官民情報網/通産省 事故原因究明に力
PL対策 設計から部材調達まで/三菱電機 基準を改定
PL対策 電機業界、対策強化へ動く
富士通がPL対策/調達先に品質保証求める
コンタクトレンズのシード/PL法対策検討へプロジェクトチーム
別の薬誤って混入/厚生省が回収指示
エーザイが皇漢堂提訴/「ビタミン剤の外観酷似」


8月の新聞記事より

■PL紛争 被害救済へ対策/企画庁 企業と調整へ専門委

 経済企画庁は製造物責任(PL)法の施行をにらみ、欠陥製品による消費者の被害を救済するための対応策を決めた。裁判所には訴えにくい少額の被害について相談に乗ったり、製造業者との調整に当たるため、同庁の外郭団体である国民生活センターに紛争処理のための専門委員会を設置するほか、製品の安全性テストの設備も充実する。法律の内容を分かりやすく解説した手引き書も作成する予定だ。大蔵省に対し、来年度の予算措置として必要な費用を要求する。
 製造物の欠陥によって被害を受けた消費者の救済を目指すPL法は6月下旬に成立した。来年7月に施行する予定だが、法律の対象は施行後に出荷した製品に限られる。このため実際にPL法の対象とする事故や訴訟が起きるまでには、かなり時間がかかる見通しだ。
 しかし、法律の施行前でも欠陥製品による事故は十分に予想される。このため、企画庁は、国民生活センターや全国に300余りある消費生活センターを通じて被害の相談に積極的に応じることにした。各センターは情報を交換し、消費者へのアドバイスにいかす。

 経済企画庁は8月26日に1995年度予算の概算要求をまとめました。これによりますとPL法関係で10億4900万円(国民生活センター交付金を含む)を求めています。今までの国民生活センターの商品テスト内容では、「新製品が含まれない」、「サンプル数が不足している」など「必要な情報がタイムリーに提供されない」という指摘があり、さらに専門技術に関する企業とのレベル差がありました。
 今後は予算が増えたことにより計測器や設備の拡充、人材の確保等が図られることになりました。このため企業がセンターに公開する技術資料等のデータについても、これまで以上の検証が行われることでしょう。

■PL対策で官民情報網/通産省 事故原因究明に力

 通産省は製造物の欠陥による事故から被害者を救済することを目的とした製造物責任(PL)法が95年7月から施行されるのに伴い、事故の原因を究明する官民の情報ネットワークづくりに取り組む。まず同省がこのほど設置した「事故原因究明体制等検討委員会」の参加メンバーである化学、自動車、電気、機械など業種別の検査協会と情報交換する仕組みを作り、その後民間の研究所などにネットワークを広げる。将来は通信回線を使ったコンピューターによる情報収集・提供の体制も検討する。
 情報ネットワークを構築する背景には、メーカーに事故の原因に関する情報を提供、製品開発や品質管理に反映させて事故の再発を未然に防ぐという通産省の狙いがある。 情報ネットワークの中心になるのは、製品の安全性などを評価する国の機関である通商産業検査所で、公的な検査協会や民間研究所とつなぐ。個別の業種で発生する事故情報を収集、徹底した原因分析が必要と判断した事故については検査所が再分析することを考えている。

 事故原因の情報が消費者へどの程度公開されるのかが問題ですが、国民生活センターなどにもオンラインでつながることでかなりの情報が手に入るかも知れません。
 ただ、関連省庁独自のPL対応の動きの結果、各省庁間の双方向の情報公開がスムースに進まないとしたら困ったものです。検索レベルの設定が行われ、通産省のネットワークにつないでいるときに関連の医療情報を、厚生省のファイルで参照できないようでは困ります。
 やはり情報省なるものを核とした、統括的に情報を公開できるシステム構築が必要になるのかも知れません。

■PL対策 設計から部材調達まで/三菱電機 基準を改定

 三菱では従来、生産コストや環境に与える影響などをもとに、製品設計および部材調達を行ってきた。これを安全対策を最重視したものに改める。具体的にはプラスチック材の鉄板への変更や、二次災害発生時の対応も考慮した警告・危険・注意などの製品本体および取扱説明書への表示も徹底する。第一弾として年内にもこうした「PL仕様」に基づく家電製品の投入を計画している。
 同時にPL法に関する社内教育も展開する。PL法の概念や事故対策、被害者救済などを過去の実例に基づきまとめた想定問答集を作成。製品の開発・設計者から、営業担当者や系列販売店まで、実務者レベルの啓もうを図る。
 一連の施策で、一部製品の製造原価は上昇する見通しだが、PL対策の徹底はユーザーの信頼確保につながると判断した。

■PL対策 電機業界、対策強化へ動く

 来年7月のPL法施行を前に、電機業界はPL対策を大幅に強化し始めた。松下電器産業が総合製品安全委員会を新設し、全社的な品質管理体制の強化に動き出したほか、東芝も三菱電機と同様に「PLP委員会」を中心に製品の安全確保のための標準化作業に着手した。家電製品協会(会長・北岡隆三菱電機社長)も、業界団体として消費者に正しい製品の使い方を教えるガイドラインの表示マークを作成、事故の発生を未然に防ごうとしている。
 また米国などに比べ、日本の新しいPL法はメーカーに責任を強く求め、流通業者に対して甘いという指摘もある。PLに対する流通業者の意識もメーカーよりは低い。家電流通はディスカウントストア(DS)やホームセンター(HC)などの新興勢力の台頭で、メーカーにとっては、製品がユーザーの手に渡るまでのルートを追跡することが難しくなっている折り、業界内でも「DSやHCが販売する家電製品をどうフォローすればいいのか」という指摘が多い。

 PL対策の本質部分である製品安全(PS)を推進するために、「PL仕様」(PLというリスクの仕様という言葉は適当ではありませんが‥‥)の製品作りを目指す三菱電機の対応は評価できると思います。
 製造原価の上昇よりもユーザーの信頼確保に重点を置いたものですが、このような製品あるいは会社の方針を「どのようにユーザーに伝えていくのか」というソフト的な対応が今後の課題になるでしょう。
 日本では、消費者向け製品評価レポート(雑誌等)で製品のデメリットを指摘する表現があまりなく、雑誌の業界と、製品を作る企業との利害の一致が消費者不在のままきたわけです。消費者の力が弱いといったらそれまでですが、これからは消費者の求めている情報を、どのような手段で提供するのかが大事になります。
 また、比較広告等で企業同士の自信ある競争を行うことも、消費者の信頼確保につながるものだと思います。

■富士通がPL対策/調達先に品質保証求める

 富士通は来年7月の製造物責任(PL)法施行をにらみ、部品・資材やOEM(相手先ブランドによる生産)品の調達先との取引契約を厳格にし、事故発生時に備えた責任分担を進めるなどのPL対策を固めた。調達先に対し、契約に購入物品の安全性保証や事故発生時の補償条項を入れるよう要請し、同意が得られない場合は購入品の品質検査を厳しくする方針だ。
 富士通が打ち出したPL対策の柱は、@購入先との契約の厳格化A製品を回収し無料で修理するリコールの独自ガイドライン作りなど、苦情対応の充実B各部門の品質管理をチェックする社内監査の導入――など5項目。このほど社内指針として制定した富士通製品安全憲章、製品安全推進規程の具体策となる。  国内外の調達先に対し個別に、富士通の望む品質水準の達成を要求するのと合わせ、購入品の安全性も契約で明確にするよう働きかける。相手側が安全性保証や事故時の補償の明文化を拒む場合、「取引の打ち切りは考えていない」(富士通)が、立ち入り検査などを含め購入品の品質をきめ細かくチェックする考え。

 部品の調達先に対するPLリスクの軽減(調達先へのリスク負担)を要求する動きが今後も多くなってくるでしょう。
 部品メーカーは、大手のPL対策に追従するだけでなく、自社部品の使用先(製品カテゴリー、ユーザー、地域等)に対する制限事項を製品メーカーに明確に提示することが望まれます。そのためには自社製品(部品)の安全特性を今一度整理しておく必要があるでしょう。

■コンタクトレンズのシード/PL法対策検討へプロジェクトチーム

 コンタクトレンズ製造の店頭企業、シードは製造物責任法(PL法)対策を検討するプロジェクトチームを設置した。コンタクトレンズは目に直接触れる商品だけに、万が一事故が起こったり訴訟が起きた場合は多額の損害賠償責任が生じ、対外イメージが損なわれる可能性が高い。来年7月のPL法施行後の体制を整えておくことでPL法によるリスクを低減する。
 プロジェクトチームは開発、営業、製造などの各部門の代表者6人で構成する。池上忠義・取締役薬事管理室長が責任者となる。当面、取り組む課題としては「コンタクトレンズが目の中で割れた」という苦情が来た場合の対応策と予防策があげられている。製品の正しい使用方法を消費者に分かりやすく伝えるにはどうすべきかも考える。

 消費者にとっては歓迎する動きですが、「このような対応は、今まで行っていなかったのか」と、驚きを感じます。おそらく苦情を受けた担当者によっては、異なる処置方法などを消費者に伝えていたのでしょう。
 「お客様は神様だ」とはよく言われることですが、「お金を出してくれる人が神様」で、「製品を使ってくれる人のことではなかった」ということでしょうか‥‥。
 今までのことはともかく、これからの企業の顧客に対する「思いやり」に期待したいところです。
 そういえば、「環境にやさしい」、「ユーザー指向」、「顧客の満足」などよく耳にしますが、一方的な造り手側の錯覚もあるようです。
 製品を使ってくれる人への「思いやり」が大事なのではないでしょうか。

■別の薬誤って混入/厚生省が回収指示

 大洋薬品工業(名古屋市東区)が製造、東京田辺製薬(東京都中央区)が販売した、去痰(たん)剤=のどのたんを取り除く薬=の「ムコトロン錠」の中に、副作用のある別の消化器疾患薬の錠剤が誤って混入していたことが12日までに分かった。連絡を受けた厚生省は同日、大洋薬品工業などに両剤の回収を指示、医療機関に対しても取り違えて処方しないよう注意を呼びかけた。岐阜県も15日に岐阜県高山市内の同社製造工場を立ち入り検査する。厚生省によると、こうしたミスは「過去に聞いたことがない」という。
 同省と大洋薬品工業によると、これまでの調査で混入は高山市の同社高山工場で製造中の包装過程で何らかのミスがあり、起きたらしい。混入の恐れがあるのは3月14、15の2日間の製造分と判明しており、消化器疾患剤が去痰剤ムコトロン錠に入れ違っている可能性もある。このため2日間に製造された両剤が回収対象となった。
 これらは6月27日以降に販売されており、ムコトロン錠は全国403カ所の医療機関に約105万錠、消化器疾患剤は81カ所の医療機関に約17万錠が納入されたという。
 消化器疾患剤は副作用があり、対象でない患者が服用した場合、食欲不振や下痢など消化器に変調をきたすほか、めまいやしびれ、意識障害などが起きる場合があるという。
 いずれも大きさがほぼ同じ白い錠剤で10錠が1シートに収まっており、一見しただけでは見分けることが難しいが、ムコトロン錠の包装シートには「MCT」、消化器疾患剤には「FFR」と記載されている。このため同省は「FFRと書かれている場合はすぐに病院に相談して欲しい」と病院や患者らに注意を呼びかけている。
 購入には医師の処方せんが必要となるため、不特定多数の人にこの薬が行き渡る心配はないという。
 関西の病院が今月10日に薬が入れ替わっていることに気付き、東京田辺製薬に連絡してミスが発覚。連絡を受けた厚生省によると、判明しているだけですでに1人が誤って服用した事故があったが、副作用による健康被害者は確認されていないという。
 大洋薬品工業は「原因は調査中だが、製造工程に何らかの間題があった可能性がある。患者には大変な迷惑をおかけした」などと話している。

 困ったことです。品質規格を整備し、ISO9000シリーズ認定工場になっていても維持監査での指摘事項はあるものですし、立入検査を受けた岐阜工場では、管理上の不備が山ほどあったことでしょう。

■エーザイが皇漢堂提訴/「ビタミン剤の外観酷似」

 大手医薬品メーカーのエーザイが、皇漢堂製薬(兵庫県尼崎市)を相手取り、皇漢堂のビタミン剤の外観がエーザイのビタミン剤に似ているなどとして、製造販売差し止めの仮処分や、700万円の損害賠償の支払いを求め、ことし4月に東京地裁に提訴していたことが26日、明らかになった。
 エーザイによると、皇漢堂が昨年発売した「ショコラールBB」が、エ−ザイの持つ登録商標「BB」や[チョコラ」などに類似しているという。パッケージのデザインもエ−ザイのビタミン剤「チョコラBB」に酷似しているため、消費者に誤認や混同を与える恐れが強く不正競争防止法違反、としている。
 皇漢堂は、医薬品メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)へルスケアからも便秘治療薬のパッケージが似ているとして、8月初め、提訴を受けている。

 6月に日清食品が「カップめんの容器デザインが日清の製品に酷似している」として東洋水産を提訴した背景には、5月1日付で施行された改正・不正競争防止法(不競法)の存在があるといわれていました。
 今までの日本企業の場合、特許や実用新案に対する権利のチェック機能強化に追われて、デザインやネーミングといった「イメージ」の財産には認識があいまいな場合があったようです。しかし、改正法を契機に「訴訟慣れ」していない企業であっても、今後は積極的に行動にでることも考えられます。
 品質や安全性に対する要求が高まっている折り、今まで以上の企業努力で生み出される製品のシェアを守るためには、積極的に権利を主張しなければならないでしょう。またこのような行動が企業の本来的な競争であると思います。

終わりに

 最近、鉛重りの中毒で水鳥が中毒死を起こすことが問題になっていますが、日本釣用品工業会は「鉛重りの代替品の開発や、ポイ捨て禁止など釣り人のマナー向上を呼びかけたい」と対策に動き出したようです。
 経済協力開発機構(OECD)でも、専門家会合でガソリンに含まれる鉛の除去だけでなく、鉛散弾、重りの削減などを討議するようになりました。
 鉛散弾についてはオランダ、米国、ノルウェーなどが使用を禁止しましたし、鉛重りについても米国では法律による禁止が提案されています。
 環境問題は、企業としての取り組みが進んできていますが「釣り人のマナー向上」に代表されるような部分を、これからどのように取り扱っていくのかも問題です。
 安全に関する表現では、具体的に起こり得る危険を明記するような動きがでてきていますが、マナー向上にも罰則(ごみ投棄は軽犯罪法が適用)の強化が必要でかつ、立て札には「ごみを捨てると法律により罰せられます」ではなく、「ごみを捨てると法律により最高○○円の罰金が科せられます」と具体的な表現が必要なのでしょう。
 もうだいぶ前のことですが、カナダの地下鉄に乗ったときのことです。緊急ブレーキの注意書きには悪戯した場合の罰金額が「50ドル」と、はっきり書かれていました。


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