1997.12 No.48  発行 1997年12月11日
発行人 中澤 滋 ASP研究所長野県松本市梓川梓3072-12 Tel/Fax 0263-78-5002

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ダイオキシンによるがん死で提訴/茨城の住民
ガルーダ機事故、事故調査委最終報告
エアバス片側車輪出ず、奇跡の着陸
消防庁、危険物をデータベース化/来年度中にも
リコール隠しで富士重工に罰金
痛い、ミニベンツの安全問題/出荷停止へ
車のエアバッグ装着義務、米運輸省が一部緩和
エアバッグに相次ぐ苦情/国民生活センター、自工会に要望
交通事故被害者108万人/車の色による要素も
中堅化粧品メーカーの全成分表示相次ぐ
強い発ガン性物質の可能性/ディーゼルの排ガスに
ハンガーの再利用本格化/百貨店協など5団体で
バリアフリー/百貨店・スーパー各社の取り組み
喫煙の社会的損失は年3兆8,000億円/医療経済研究機構報告
がんの手術、でもたばこやめられません


11月のニュースから

■ダイオキシンによるがん死で提訴/茨城の住民置
 茨城県新利根町のゴミ焼却場「城取清掃工場」の周辺住民8人が21日に、「地域でがん死亡率が高いのは工場の排煙に含まれるダイオキシンが原因」として、工場を運営する竜ヶ崎地方塵芥処理組合(4市町、管理者・竜ヶ崎市長)に操業停止と、約300メートル離れた新工場の新設差し止めを求める訴訟を水戸地裁竜ヶ崎支部に起こしました。
 昨年3月に行った摂南大薬学部の宮田秀明教授の調べでは、工場周辺の土壌から非汚染地域の100倍以上のダイオキシンが検出され、さらに工場から1キロ以内の住民の死亡原因を過去10年間のデータで分析したところ、がんによる死亡が42%を占め、これは全国平均の1.5倍に上ることが明らかになりました。
 今年9月に提訴準備をしていたときは、環境庁が96年12月にまとめた全国平均濃度に比べ異常に高い(都市部平均濃度の12.5倍、一般地域濃度の125倍)ダイオキシン濃度を争点にしていました。
 ダイオキシン濃度が全国平均に対し、「どの程度高ければ問題か」の議論では、工場の操業停止と新工場の新設差し止めを求めることは難しかったのでしょう。そこで今回は「がん死」という、より定量化しやすい被害で争うことにしたようです。
 ところで、この城取清掃工場の管理者である海老原竜生・竜ヶ崎市長は、市長選を巡る対立予定候補者買収事件で、この11月逮捕されています。このような不祥事を聞くと、目的のためには手段を選ばない、ごり押しの姿勢が浮かび上がります。「操業を停止したら周辺のゴミ処理ができない」といった硬直化した考えでなく、知恵を出してほしいものです。

■ガルーダ機事故、事故調査委最終報告
 福岡空港で昨年6月に起きたガルーダ航空のDC10が離陸失敗、オーバーランして炎上、3人が死亡、170人が重軽傷を負った事故で、運輸省航空事故調査委員会は20日、「スピードがV1(離陸決定速度)を越えていたのに離陸を中止したのは、機長の判断ミス」とする最終報告書をまとめました。
 事故の引き金になった主翼の第3エンジンの故障は、昨年9月28日までの調査でタービンブレードの亀裂による破損であることが確認されています。機長は「V1を過ぎてから緊急停止を決心した」との証言をしていて、離陸を続行することで事故回避が可能であったかも焦点になっていました。
 また、V1後にエンジン1つが故障した場合の離陸継続訓練を、機長らは過去1年間受けていなかったこともこの最終報告書では指摘されています。緊急時に事故回避するための教育訓練の重要性を感じます。

■エアバス片側車輪出ず、奇跡の着陸
 ロンドンのヒースロー空港で5日の夕、114人の乗員・乗客を乗せたエアバスA340が着陸直前に右側主翼下の車輪が出なくなりました。このため同機はロンドン上空を旋回しながら機長が機体を左右に激しく振るなどしましたが車輪は出ず、燃料が尽きかけたために着陸を強行、エンジンを滑走路にこすりながらも奇跡的に着陸することができました。
 この機長は軍のパイロット出身で、全英軽飛行機アクロバットのチャンピオンでもあり、乗客を安心させるため機内放送で冗談を言いながら着陸したそうです。緊急時でも冷静さを失わず行動できる余裕を感じました。

■消防庁、危険物をデータベース化/来年度中にも
 自治省消防庁は「危険物災害等情報支援システム」づくりに乗り出すことを7日までに決め、来年度中にも危険物に関するデータベースを作り、全国の消防本部とオンラインで結ぶ方針です。
 情報支援システムは当面5,000種類の化学物質が対象で、揮発性や有毒性の有無、防護資機材、事故時の対応策などに関する情報をデータベースに蓄積します。このデータベースに災害現場の状況(におい、色や特徴など)を入力することで危険物の種類などを絞り込み、迅速な対応を図ろうというものです。
 今年8月に静岡県菊川町の東名高速で起きたタンクローリー横転事故では、有毒化学物質「脂肪酸クロライド」が道路上に流出、現場付近に降っていた雨と反応、塩化水素ガスが発生し15時間にわたり通行止めとなりました。テレビニュースでもいろいろ取り上げられ、化学物質の中和方法の難しさなどがクローズアップされ、まだ記憶に新しいものです。
 このシステムが機能することで、消防職員がいるのに消火の方法が分からない、といった情けないことはなくなるでしょう。

■リコール隠しで富士重工に罰金
 大きなニュースとなってしまった富士重工業のリコール問題では、運輸省が「悪質で、メーカーとしてあるまじき行為」として最も重い行政処分である罰金を求める通知を東京地裁にしました。
 自動車ではその危険性の高さから、リコール制度があり、メーカーは不具合が見つかったときにはリコールする義務があります。企業の速やかなリコールにより最小限の被害にとどめることができ、リコールしたといってもその企業の信用が失われることはまずありません。
 それにも関わらず欠陥を隠そうとした今回のケースは、企業のイメージダウンを過度に恐れ、かつ公平さの視点のない最近の総会屋対策などと同じ背景があるようです。困ったものですが、「リスク評価がお粗末だった」というしかないのでしょうか…。

■痛い、ミニベンツの安全問題/出荷停止へ
 ベンツ初の小型車「Aクラス」は10月に欧州で発売されたものの、スウェーデンで起きたテスト走行中の横転事故で大きくつまづきました。10月末に発表した対策では、走行安定性を高める電子安定性プログラム(ESP)を追加装備し、さらに新タイヤを標準装備する、といったものでした。
 ところがベンツ社は11月11日、走行安定性に依然問題があるとして、出荷の一時停止を決めました。そして、出荷停止期間中にシャシーの全面的な見直しを行い、ESP装備のほかスタビライザーを新しいものに変更、スプリング/ショックアブソーバーと車軸のチューニングを改善し、ボディーの重心を下げてタイヤのサイズも変更するなどの大幅な改良を施すことを発表しました。
 気になるのは11月8日のドイツのシュツットガルト紙の記事で、社長が技術者らに対し「Aクラス」の安全性を来週中にベンツの標準レベルまでに高めるよう言明した、というものです。今回の欠陥騒ぎの発端となったスウェーデンでのスラロームテストは、一般的な走行テストであり、このような記事を見ると「Aクラス」の安全品質は、「当初からベンツの標準レベルではなかった」とも思えます。
 安全では定評のあるベンツ社ですが、いったいどうしたというのでしょう。

■車のエアバッグ装着義務、米運輸省が一部緩和
 米運輸省は18日、自動車のエアバッグ装着義務を一部緩和、条件に合えば作動停止のスイッチを取り付けることを認める発表をしました。
 これによると乗用車および後部座席のないトラックの運転手・助手席にエアバッグの作動を停止させるスイッチは次の条件の場合認めることになりました。@日常的に複数の子供を乗せる必要があり、やむなく小児を助手席に乗せなければならない場合A運転者の身長が低く、エアバッグから25センチ以上離れることができない者B疾病などの理由によって助手席に乗せなければならず、しかも監視する必要がある者がいる場合C後部座席がない、あるいは疾病などの理由で後ろ向き小児座席を助手席に取り付け、使用しなければならない場合−−などです。
 米国では日本と違いシートベルトの着用義務がないため、エアバッグの衝撃による事故で死亡するケースが多く、政府、自動車業界、ユーザー、保険業界を巻き込んだ問題になっていました。結局ユーザーの要望を取り入れた形で決着したわけで、12月18日から施行されます。

■エアバッグに相次ぐ苦情/国民生活センター、自工会に要望
 国民生活センターによると、エアバッグ関連の苦情は92年度以降これまでに74件あり、大半は「不作動」ですが、「走行中に突然開いた」などの誤作動が12件、けがをした事例も12件あったということです。
 このため同センターでは21日、自動車メーカーでつくる日本自動車工業界に対し、エアバッグの作動条件やその限界などについて消費者によりきめ細かく情報提供するよう要望しました。また「消費者がエアバッグの機能を過信する傾向がある」として、テレビコマーシャルなど広告のあり方を再検討することも求めています。
要望を受けた自工会では「業界としてもパンフレットをつくるなど啓発活動をしてきたが、具体的に提案を頂いたので早急に中身を検討し、必要な点は改善したい」と話しています。
 これはちょっと気になる発言で、エアバッグの標準装備が進む中、デメリット表示であるエアバッグの危険性については、新聞・テレビなどでずいぶん指摘されてきました。今回具体的な要望を受けたから検討するというのは、少々苦しい発言のように聞こえます。おそらく各企業は情報収集を相当行い、何をすべきかも分かっているのに営業成績の低下を恐れるあまり積極的な対処をしないできたのでしょう。
 「顧客満足」とか「環境に優しい企業」などには熱心ですが、顧客の安全を忘れないで欲しいものです。

■交通事故被害者108万人/車の色による要素も
 日本損害保険協会がまとめた「自動車保険データに見る交通事故の実体」によると、95年度の交通事故被害者では人身108万人、物損687万件で、経済損失額は合計3兆1,280億円に及んだことが分かりました。
 車に関するデータでは、自家用乗用車・軽四輪者の事故率が全体の約77%を占め、車の色別の車両損害台数構成割合では、自車の場合、茶系、黄系の車両単独事故の割合が高く、相手車の場合は緑系、黄系の追突割合が高くなっています。被害者の構成割合は、男性は東京、女性は宮崎県が最も高く、年齢別で60歳以上の構成割合が最も高いのは高知県になっています。
 損保協ではこれらのデータを都道府県庁、都道府県警察本部、交通安全関連機関・団体・研究者に送付すると供に、一般にも無料(郵送料として切手390円分が必要)で提供しています。申し込みは損保協の交通安全推進室(03-3255-1945)まで。

■中堅化粧品メーカーの全成分表示相次ぐ
 日本生活協同組合連合会、ちふれ化粧品などでは多くの商品で全成分表示を行っていますが、ここにきて中堅化粧品メーカーによる表示の動きが相次いでいます。ナリス化粧品のスキンケア商品「アネスティ」、そしてノエビアの子会社のサナではスキンケア商品「ナチュラルリソース」で全成分表示に踏み切りました。
 全成分表示は、消費者全員が必要とするとは思いませんが、皮膚の弱い人でも成分表を見て安心もでき、また医師にも相談しやすいといった消費者の満足につながることに思えます。
 欧米では化粧品の全成分表示を義務付けていますが、日本の大手メーカーでは「かえってわかりにくくなる」などの消極的な言葉が聞かれます。本当に「わかりにくくなる」のかどうか、消費者の意向を調査したとも思えないので、「黙って我々の製品を使用すればよろしい」といった一昔前の考え方のように聞こえます。安全に関するお客の意見を聞かないのでは、メーカーの顧客満足達成度はずいぶん低いはずなのですが、さてどうでしょうか?いずれにしてもブランド志向の強い客層が、今後これら商品をどう評価していくかがポイントだと思います。

■強い発ガン性物質の可能性/ディーゼルの排ガスに
 国立公衆衛生院の久松由東主任研究官と鈴木仁美・京都大理学部教授らは、ディーゼル排ガスの中からこれまで知られていなかった強い発ガン性を持つ可能性のある物質を見つけ、米環境科学技術雑誌最新号に発表しました。
 新たに見つかった物質は燃料の燃焼で発生する化合物と窒素酸化物が反応してできるもので、ディーゼルエンジンからは、排気微粒子の表面について排出されるようです。ディーゼルの黒煙問題では気にする人も増えましたが、あの煙には科学では解明されていなく、健康を害する物質がいろいろ入っているのでしょう。

■ハンガーの再利用本格化/百貨店協など5団体で
 日本百貨店協会、日本アパレル産業協会など関係5団体が進める百貨店統一ハンガーによるリサイクル活動が本格化してきました。
 ハンガーは衣料品メーカー独自規格のものが多く、お店ではお客さんに使ってもらうほかはほとんどを廃棄していました。この活動は約700種ものハンガーを21種類に標準化し、回収しやすくし、素材を統一化することで破損後のハンガーを原料に戻し再利用を可能にするものです。この再利用により年間5,000万本のハンガー廃棄をやめることができます。

■バリアフリー/百貨店・スーパー各社の取り組み
 百貨店やスーパーのバリアフリーの取り組みが目立ってきました。イトーヨーカ堂は22店舗で、各フロアに「ふれあい灯」と称する呼び出し表示灯を設置しました。買物などで助けが必要な人がこのボタンを押すと、メロディー(エリーゼのために)が流れ、近くの店員が手助けするものです。また、事前に予約するかカウンターで申し込めば、店員が付き添う介護サービスも全店で実施中です。
 三越、高島屋、京王百貨店などでは、9月から、杖の代わりに使える歩行補助型ショッピングカートを貸し出しています。このカートに買った商品を入れて運ぶこともできるし、疲れたらいす代わりに使えるものです。
 日本百貨店協会では、インターネットのホームページ(http://www.depart.or.jp)で、東京、大阪地域の百貨店が実施しているバリアフリーの取り組みを紹介しています。

■喫煙の社会的損失は年3兆8,000億円/医療経済研究機構報告
 医療経済研究機構(東京都千代田区永田町1-5-7、荒木ビル/03-3506-8529)では、3年間にわたり実施した「喫煙政策のコスト・ベネフィット分析に関わる調査研究」事業の結果報告をまとめました。
 これによると直接喫煙による社会的損失総額は、年間3兆7,935億円となっています。このうちたばこによる超過医療費は1兆1,512億円となっており、これは国民医療費全体の4.73%に達することになります。受動喫煙については、影響の定量化が困難ということで、今回の試算には含まれていません。
 厚生省は「今回の試算は最低限の損失を算出したもので、実際にはもっと多いはずだ」としており、さらに「国民所得の減少は国にとつては税収の減少でもある。医療費に占める割合も少なくない。たばこの問題はたばこを吸う個人や家族だけでなく社会全体の問題だという認識を持ってほしい」と話していますが、喫煙者が「社会全体の問題」という認識を持つにはまだ時間がかかりそうです。

■がんの手術、でもたばこやめられません
 胃がんや喉頭がんを治療・手術した人でもなかなかたばこがやめられない、そんな人が多いことが最近の調査で分かってきました。
 大阪府成人病センター調査部では、1994年に同センターで胃がんの診断を受けた患者および93,94年に耳鼻科で口腔・咽頭・喉頭がんの診療を受けた患者を対象に、治療後1年の時点でアンケートを取りました。
 受診時に喫煙していた人は、胃がん患者で68人、耳鼻科患者で130人いました。このうち治療後。禁煙できなかった人は、胃がん患者では36人(53%)で、耳鼻科患者では26人(20%)でした。
 胃がん患者では、半数以上の人がまたたばこを吸い始め、耳鼻科の患者では20%というのは興味深いものがあります。たばこは口で吸い煙がのどを通るため、手術した部位が直接感じられる耳鼻科の患者では禁煙率が高いのでしょう。また、たばこは嗜好品でもあり、何かと理由を付けては吸いたくなるものですが、手術をして「もう治ったから大丈夫」と感じる人も多いのでしょう。
 米国では昨年8月にニコチンを「習慣性薬物」と指定し、その媒体であるたばこを米食品医薬品局(FDA)の規制の下に置くことを決定しています。アメリカの動きは10代の喫煙の抑制を目指したものですが、たばこによる個人の健康被害を放っておくのは健全な社会ではない、といった考えがあると思います。

終わりに
 今号から体裁を変え、ニュースを多く取り上げるようにしましたがどうでしょうか。
さて、ミニベンツにはちょっと期待していたのですが残念です。これで当分ベンツは持てそうにない、という人も多いかもしれません。

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