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2000.4 No.76  発行 2000年4月11日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

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■医療ミスの届け出義務違反で書類送検/都立広尾病院
■執刀医ら6人在宅起訴/横浜市大、患者取り違え事故で
■治験薬投与の死亡事故で愛知県に賠償命命令/名古屋地裁
■人工呼吸器にエタノール注入、患者死亡/京大病院
■8倍の抗がん剤で男性死亡/大阪赤十字病院
■内服薬を点滴、末期がん患者死亡/札幌の病院
■モルヒネ10倍投与で末期がんの患者死亡/埼玉の病院で
■医療事故防止策で連絡会議/厚生省
■医療ミス自主公表/大阪の八尾病院


3月のニュースから

 昨年1月の横浜市大病院での患者取り違え事故や2月の都立広尾病院での消毒液注射事故はまだ記憶に新しいものですが、今年1月にも国立循環器病センターの手術ミスなど大病院での事故が続いています。3月は医療関係のニュースが特に多いため、今号では医療問題を特集的に扱ってみました。

■医療ミスの届け出義務違反で書類送検/都立広尾病院

 東京都渋谷区の都立広尾病院で昨年2月、血液凝固阻止剤と間違えて消毒液を点滴するなどして入院患者を死亡させた事件で、警視庁捜査一課と渋谷署は3日、医師法(異状死体の届け出義務)違反や業務上過失致死など5つの容疑で、当時の院長と病院関係者8人そして東京都病院事業部副参事の計9人を書類送検しました。

 「医療事故の届け出の遅れ」に医師法を適用して立件するのは、非常にまれなケースと言われています。また同課は医師資格のない都職員や病院事務職員についても医師法違反の共犯容疑で送検できると判断したものです。同病院の不手際が病院と患者の信頼関係をくつがえす、大きな社会問題であることを重視した警視庁の意気込みが伝わってくるようです。

 この事件の問題は死因を偽った死亡証明書の作成や消毒液が入っていた容器を捨てた証拠隠し、そして病院からの相談に「病院で治療中の患者が死亡して警察に届けた前例がない」などの助言をした副参事の、「不利益のためには真実を隠す」という感覚でしょう。人の行う作業には必ずミスが発生するものであり、ミスを未然に防ぐ予防策を取り、起きてしまったミスを最適な状況へと展開するためのマネージメントには目を向けないようです。個人的な責任逃れの「ミスを取りつくろう」いう態度は、排他的で利己的な人間と言わざるを得ません。しかし、人の死に直結する職務に携わる人の基本的態度であるならば、罰則を求めたいくらいです。虚偽の言動は殺人ほう助、あるいは隠とくの罪に問われるというくらいの感覚を持つべきでしょう。また自分が訴えられないよう必ず責任者に報告し、責任者は法律に遵守した行動を取ることがリスクの最小化につながることを自覚して欲しいと思います。

 今回、病院からの相談に応じた副参事の対応には驚きましたが、意思決定に関る人間の資質が問われます。リスクマネージメントを「何か起きたときの対処」として目先の損得だけを考える人が多いのですが、病院などは社会基盤として国民生活を支えているため、社会の最少リスクを常に目指すポリシーが求められます。

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■執刀医ら6人在宅起訴/横浜市大、患者取り違え事故で

 昨年1月、横浜市大付属病院(横浜市金沢区)で起きた患者取り違え事故で、横浜地検は22日、手術を担当した執刀医と麻酔医、看護婦の計6人を業務上過失傷害罪で在宅起訴しました。
昨年7月に神奈川県警が18人を同容疑で書類送検したのですが、横浜地検では手術に関った職員中、病棟から手術室への搬送と麻酔、執刀の各場面で患者本人を確認できたのにそれを怠った第一外科部長、第一外科助手、麻酔医2名、看護婦2名の起訴に踏み切ったものです。患者を識別するための識別バンドを使っていなかったことでは、「他の病院でも徹底していないところもあり、過失とは認定できない」とし、当時の病院長の管理責任については嫌疑不十分で不起訴、残り11人については過失の度合が低いとして起訴猶予処分としました。
日常的な安全管理の徹底を把握することが最高責任者の管理責任であり、徹底していることが何故判断できるのか、そのあたりを追求して欲しいものです。「ミスがなければ安全管理は徹底している」と考えるのは、マネージメント不在の誤った考え方です。

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■治験薬投与の死亡事故で愛知県に賠償命命令/名古屋地裁

 愛知県がんセンター(名古屋市)に入院中、臨床試験(治験)の説明を受けないまま治験段階の抗がん剤を安全基準を越えて大量に投与され、主婦が死亡したとして遺族が愛知県などに約7,100万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が24日、名古屋地裁で言い渡されました。

 愛知県側は「治験薬であると口頭で説明し同意を得た。安全基準に違反し、投与したのは究明のためで死亡との因果関係はない」としていましたが、、高橋勝男裁判長は「医師が主婦に治験であると説明したとは認められない。(医師の行為は)主婦の安全への配慮に著しく欠いた非人道的な行為だ」と述べ、愛知県に3,400万円の賠償を命じました。また「医師はインフォームドコンセントの原則に反している。その結果、主婦を死亡させた」とも述べ、治験でのインフォームドコンセントに関する初の司法判断を示しました。

 口頭での説明は患者・医師双方の思い違いを誘うものですが、判決を事実として捉えた場合、医師が証拠がないのをいいことに「説明した」というのは、まるで子供の言い訳のようです。訴えられた病院側が「説明を行った」という客観的事実を証明できなかった結果の判決だと思います。遺族が面倒な裁判を起こすということは、道義的に許せない余程のことがあったのでしょう。今のわが国では遺族側は裁判には消極的で、病院側はそれを逆手に取り「何とかなる」と、高をくくっていたのではないでしょうか。このような態度は、医療現場でのミスや事故を患者に知らせず隠し通しすことを日常的に行っていることの現れでもあり、患者との信頼関係を取り戻すには時間がかかりそうです。

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■人工呼吸器にエタノール注入、患者死亡/京大病院

 京都大病院(京都市左京区)で2日死亡した女性患者(17)は、病院のミスによるエタノール中毒の可能性が高いことが分かり、京都府警捜査一課と川端署は7日までに業務上過失致死容疑で捜査を始めました。この女性は難病のため生後間もない頃から入退院を繰り返し、10年以上前から京大病院で治療を受け、人工呼吸器を常時着けていました。

 事故は2月28日午後6時ごろ看護婦が呼吸器の加湿器に入れる蒸留水を間違えて消毒用エタノールを注入したことで発生し、3月1日午後11時になりようやく異常に気付いたものの、患者は2日午後7時54分に死亡してしまいました。驚いたことに間違えたエタノールは2日間の間注入し続けられていました。同病院が3日、患者の死亡を川端署に届け司法解剖の結果、6日にエタノール中毒と判明しました。同病院は7日、事実関係を認め謝罪しています。

 エタノールは2日間の間十数回も補充したといい、なぜこの間誰も気がつかなかったのか不思議です。消毒用エタノールの容器は通常茶色のものが多いのですが、ここでは蒸留水と同じ色、形状の容器だったのでしょうか。また消毒用エタノールがなぜ病室に置いてあったのかも疑問点です。多くの病院では患者が薬品などを飲んでしまうことを防ぐため、病室に薬品を置かないよう注意し、あらかじめエタノールをひたした消毒綿を用意するなど対応しているようです。捜査が進み事実関係が分かってくると思いますが、同病院が無色のエタノールと蒸留水を間違えないような管理をしていなかったのは事実でしょう。ところで人工呼吸器の加湿器の、蒸留水を入れる箇所は取扱者の顔よりも低い位置が普通のようです。したがって加湿器に注入するときにはアルコール臭がすると思われますが、十数回のエタノール補充で異常に気がつかなかったのも不思議です。

 ところで京大病院では、O型の舌がん患者にA型の血液を輸血し、危うく死亡させる事件が1998年にあったことを、昨年2月の同病院の記者会見で明らかにしています。このときは別の患者用に保管されいた冷蔵庫のA型血液パックに記載された患者名や血液型などを確認しなかった医師のミスでした。当時の外科課長であった飯塚教授は「輸血前に複数の者が声を出し、パックの患者名などを確認するのが原則。1人で輸血したのがミスの原因」と説明していましたが、どうやら記者会見用の原則論を述べただけのようです。いまだに安全管理ができてないことが今回の“事件”で明らかになりましたが、同病院の問題は、単にマニュアル等の不備ではなく、患者本位のマネージメントの視点がないことでしょう。

 学会などの資料を見ると感じることですが、どうも医療従事者の考える品質はアカデミックで実践的でなく、結果をあまり重視していないようです。品質管理の厳しい企業に数ヶ月間教育出向させるなど、実践的な品質マネージメントを体に覚えこませる必要性があります。

 さて京大病院の医療事故を受けて22日、国立大病院長会議の常置委員会(委員長・山浦晶千葉大病院長)は「みずからの問題として重く受け止め、医療の安全を再構築するため全力を挙げて取り組む」とする声明を発表しました。声明は「今までの事故防止に向けた取り組みが不十分だったことを反省し、おわびする」と謝罪、「医療は患者のため」という原点が、全ての医療関係者の心に根づくように努力を積み重ねていくとしています。同委員会ではまた、今回の事故の教訓も踏まえ、安全性を向上する具体策をまとめる方針でいます。

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■8倍の抗がん剤で男性死亡/大阪赤十字病院

 大阪赤十字病院(大阪市天王寺区、清水達夫院長)で前立腺がんで入院していた大阪府内の男性患者が通常の8倍の抗がん剤を誤って投与され、副作用で今年1月に死亡していたことが、10日分かりました。

 病院によると男性は以前治療を受けた前立腺がんが悪化、昨年12月22日に入院し抗がん剤の治療を始めました。同月27日午前、主治医の男性研修医(27)が別の抗がん剤の分量と勘違いし、10mgのところを80mgと通常の8倍の指示を出して、看護婦がそのまま点滴投与してしまったものです。男性は同日夕方から吐き気や下痢を訴えるなど抗がん剤の強い副作用から白血球が減少し敗血症となり、今年1月13日に多臓器不全で死亡したものです。同病院では当初、死因について「抗がん剤の副作用」と家族に伝えていなかったのですが、6日後の19日にミスを認め家族に謝罪したといいます。この事故で大阪府警天王寺署は11日午後、業務上過失致死の疑いで同病院を家宅捜索しました。また遺体に異状があったにもかかわらず同病院が警察に届け出ていなかったことから、同署は医師法違反の疑いもあるとみています。

 医師の間違った指示でも、薬を用意する薬剤部などの薬剤師がなぜ異常に気付かなかったのか、また薬剤の投与は何日か行われていたようなので、突然8倍もの分量に変更されたことに看護婦は疑問を持たなかったのか、など疑問が残ります。2重、3重ものチェックが行えたはずなのに分業化の弊害か、人の医療を行っていることを忘れ、医師の指示通りに動くことしかできなかったのかもしれません。安全を確保するためのシステムがあっても、安全が職員個人の行動に左右される病院のマネージメントではなかったようです。

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■内服薬を点滴、末期がん患者死亡/札幌の病院

 札幌市中央区の中村記念病院で1998年1月、看護婦が男性患者(当時72)に、栄養分を入れる点滴に内服用の抗がん剤を入れたことから患者の容体が急変、直後に死亡していたことが21日分かりました。

 同病院によると98年1月13日、末期がんで2ヶ月前から入院していた患者に、鼻から入れた流動食用のチューブで投与していた抗がん剤などを含んだ内服液を、准看護婦(34)が誤って点滴に注入したといいます。患者は静脈に薬が入ったことから容体が悪化、約1時間後に急性呼吸不全で死亡しました。ミスは点滴用の高カロリー輸液と取り違えたものであることが分かったのですが、内服液は白濁しているのに対し静脈注射で投与する高カロリー輸液は無色透明のため識別が容易のため、病院側では「考えられないミスだった」と話しています。

 同病院は医療ミスと患者死亡の因果関係を認め遺族に謝罪し慰謝料を支払ったのですが、事故を警察に届けなかった理由として、「患者側が公表を拒んだため」と話しています。病院は21日になって警察へ届け、初めて事故が明らかになりました。全国の病院ではまだ多くの公表されない医療事故が眠っているようです。病院側の隠す対質は簡単には是正されないので、患者側も慰謝料をもらえばそれで終わりではなく、公表することで社会に病院の質を提示し、今後の改善を促すべきです。それが社会人としての責任でもあると思います。

 同病院は1992年3月に開業のベッド数672床で、脳神経外科の分野では道内を代表する病院であるとのことです。

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■モルヒネ10倍投与で末期がんの患者死亡/埼玉の病院で

 埼玉県川口市の埼玉県済生会川口総合病院で、末期のすい臓がんで入院していた女性(44)に、痛み止めの塩酸モルヒネを誤って通常の10倍の量を投与し、死亡させていたことが30日に分かりました。川口署の調べによると、昏睡状態の女性患者に鎮痛剤として1日24時間、モルヒネの点滴を投与していましたが、22日夕方、モルヒネ投与を担当する看護婦が21日夕からの24時間で医師の指示した量の10倍のモルヒネが投与されていたのに気が付いたものです。

 原沢院長は「あってはならないことで謝罪したい」とミスを認めているものの、誤投与による血圧や脈拍に変化がなかったとし、「患者の死との因果関係はないと考えている」と話しています。末期のすい臓がんということで誤投与がなくても死亡したと言いたいのでしょうが、3日後の突然の死亡と10倍のモルヒネ投与による薬理学的な身体影響など十分な調査が望まれます。また、血圧や脈拍のモニタリングをしていてもデータの記録がない、というケースもあるので事実関係が気になるところです。

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■医療事故防止策で連絡会議/厚生省

 厚生省は初歩的なミスによる医療事故が頻発していることから、日本医師会や日本看護協会など医療関係27団体を集めた「医療安全対策連絡会議」を設置し、22日に省内で初会合を開きました。厚生省がこれほどの団体を集めて連絡会議を作るのは極めて異例のことといい、まさに現在医療現場で起きている異状な状況を示しているようです。会議では厚生省のこれまでの取り組みの報告、およぴ今後の対策として医療事故の実例を収集・分析して医薬品や医療器具の改善を図る制度の導入や、国立病院・診療所を対象とした統一的な医療事故防止マニュアルの作成などの説明があり、出席者がそれぞれの立場で意見を述べたといいます。

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■医療ミス自主公表/大阪の八尾病院

 大阪府八尾市の医真会八尾総合病院は19日までに、院内の医師や看護婦らの報告に基づいた調査で97年11月から今年2月までに起きた医療ミスを明らかにしました。ミスは関連6施設を含めて770件、ミス寸前のケースが408件あり、看護方法や投薬に関するものが大半であったとしていますが、中には点滴やエックス線撮影で患者を取り違えるという深刻なミスもあったといいます。

 同病院は医療現場の実態を把握するために97年秋、医師看護婦らに対しミスやひやりとしたケースが生じた場合に必ず報告を上げるよう指示しました。また、これら結果を受けて医療ミスの問題を検討するリスクマネージャを専従で3人配置、投薬ミスの防止策を探るための医師らによるプロジェクトチームも設置したといいます。医療機関の自主的なミスの実態公表には少々驚きましたが、最近少しずつ増えてきた医療品質を第三者機関で評価する制度よりも一歩も二歩も進んでいるようです。

 製造業などでは環境会計などマネージメントの質を公表する企業が出てきましたが、そこには企業のいい部分だけを評価してもらいたいという本音が見えます。市場でのクレームがありながら有償でソフトウェアの不良箇所を直したり、事故が多発してからようやくリコールする企業も多いのが現実です。企業品質の情報公開の流れの中で、今後ネガティブ情報の取り扱いをどうするのかが問われます。市場での不良率や修理内容などの情報を公開することで売り上げが落ちると考えるのは、少々短絡的かもしれません。継続的な情報公開が企業をより強固にし、株主の信頼を生み、企業・消費者双方にメリットを与える可能性が大きいと考えます。

 もちろん今回のケースはサービス業でもある病院の情報公開のあり方で、製造業のそれとは必ずしも一致しないかもしれません。しかし地球・社会・消費者と共生する企業では、見習うべき点が多くあると思います。

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終わりに

 病院内での事故ではないのですが、茨城県土浦市内の製造会社の社員を対象に7日に行われた成人病検診でミスがありました。有馬記念医学財団・富坂診療所(東京都文京区)の原田充善所長によると、胃のレントゲン撮影のために飲むバリウム液に誤って消毒用エタノールが混入、受診者54人のうち21人が気分の悪さなどを訴えて病院などで治療を受けたといいます。全員軽傷でその日のうちに完治したのはなによりでした。

 同診療所によると、消毒用エタノールは一斗缶から専用の瓶に小分けされて保管、作業は看護婦が行うことになっています。ところが当日、医療資格を持たない職員が「転がりやすい」などの理由で、勝手に水を入れるプラスチック容器に移してしまいました。その容器には内容物を示すラベルが張っていなかったため、放射線技師が容器の内容物を水と間違って、エタノールの混入したバリウム液を調整してしまったといいます。困ったことです。

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