Web版

2000.5 No.77  発行 2000年5月12日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

[ ASP ホームページ ] [ ASPニュース2000 ]

ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

定期購読について




■機長を書類送検/日航機乱気流事故で操縦ミス立件
■新規原発ゼロも/エネルギー調査会
■混雑時の携帯電話禁止/JR東日本
■点滴用チューブの間違えで患者死亡/神戸の病院
■点滴ミスで1歳女児死亡/東海大病院
■3倍の抗がん剤で患者死亡/癌研病院
■人工呼吸器停止で患者死亡/国立療養所沖縄病院
■医薬品、医療用具の事故防止対策/厚生省まとめる
■運輸省の船舶監査にばらつき/総務庁の行政監察で判明
■コンポスト(有機肥料)化の問題/塩害


4月のニュースから

■機長を書類送検/日航機乱気流事故で操縦ミス立件

 1997年6月、三重県の志摩半島上空で日本航空MD11型機が激しく揺れ、客室乗務員ら12人が死傷した事故で愛知県警捜査一課は19日までに、事故機の機長の操縦ミスが揺れを引き起こした疑いが強まったとして、今月中に機長を業務上過失致死傷容疑で書類送検する方針を固めました。事故は志摩半島上空を航行中の同機が、乱気流を避けるための機長の操作で機首が5回にわたり激しく上下し、乗員と乗客が天井や床にたたきつけられたものです。この事故で頭を強打し重体だった女性客室乗務員は、99年2月に死亡しています。調べによると、機長は自動操縦中に機体を降下させたところ速度が速くなりすぎ、速度を押さえようとして操縦桿を引いてしまい(機首を上げる操作)、自動操縦が解除されたとしています。バランスを失った機体を安定させようとして機長はさらに操縦桿を操作し、そのため短時間に急激な上下動が発生したもので、県警では機体の操縦方法に問題があったと判断したようです。

 運輸省事故調査委員会はこの事故について、「自動操縦装置の特性とパイロットの操作が複合して揺れが起きた」と結論付けていましたが、墜落していない航空機事故で機長の過失責任が問われるのは極めて異例のことです。中華航空機事故以来、自動操縦装置の危険性が指摘されてきましたが、今回もなにげない機長の操縦桿操作が、予想もしない自動操縦の解除をもたらし、その事態に冷静な行動ができなくなり危険な状況へと進んでいったようです。

 自動操縦装置と人の操作の間にスムースな連携が認められないということは、パイロットの技術的な問題だけでなく、人の異常時の行動を考えた機械(機体)側の設計にも一工夫欲しいものです。操作における人の多様な行動目的に対しては、自動操縦を直ちに解除せずいったんセミオートのモード(アシスタントモード)に入るようにし、表示パネル上で適切な操作を促す方法なども考えられます。
いずれにしても自動操縦に慣れるにしたがい、操作者(パイロット)の感性・スキルは変わることから、開発時の安全設計評価は時間とともに変わらなければなりません。

目次へ


■新規原発ゼロも/エネルギー調査会

 中長期的なエネルギー政策のあり方を議論する政府の総合エネルギー調査会(通産省の諮問機関)の茅陽一総合部会長は、時事通信社のインタビューにおいて、2010年度までの原子力発電所の新規立地の件数を「ゼロ」とすることも視野に入れて、原発政策を大幅に見直す意向を表明しました。また茅部会長は「新規立地の件数は最低でも電力会社が3月に電力の供給計画に盛り込んだ13基になると思う」とも述べています。

 政府は今まで、原発は石油や石炭を使う火力発電と異なり、地球温暖化ガスをほとんど排出しない、という観点からクリーンなエネルギーとして原発推進政策を堅持してきました。このため1998年6月に策定した長期エネルギー需給見通しでは、2010年度までに16―20基の原発を新設することにしていましたが、東海村の臨界事故以来反原発の声が高まっていることもあり、同部会長の発言は注目されます。

 ところで原発はクリーンなエネルギーかどうかについて、世界自然保護基金(WWF)は6日、原発の利用は有効な地球温暖化対策とはならない、との報告書を発表しました。報告書によると、核燃料として利用可能なウランを天然ウランの中から濃縮する過程で膨大な電力を必要とするため、1キロワット時あたりのCO2の排出量は35グラムと試算され、風力の同20グラム、水力発電の同33グラムを上回るとしています。また原子力発電の熱がほとんどそのまま捨てられているのに対し、天然ガスや木材を利用したバイオマス発電では、発電過程で出る熱を電力と同時に供給する「熱電併給(コジェネレーション)」が可能で、このため熱利用まで含めて考えると、原発からのCO2排出量は天然ガスとほとんど変わらず、バイオマス発電の7倍近くなるといいます。

 WWFは日本のように原子力発電への依存度が高い国ほどコジェネレーションの導入率が低いといった例を挙げ、「大規模な原発の利用が国内のエネルギー利用効率向上を妨げている」と指摘しています。また「地球温暖化対策の名の下に、原子力技術を発展途上国などに移転するべきでない。CO2の排出削減は徹底した省エネやエネルギー利用効率の向上によって実現すべきだ」とも指摘しています。さて、政府の反論はいかがなものでしょうか?

目次へ


■混雑時の携帯電話禁止/JR東日本

 公共場所での携帯電話の使用に迷惑と感じることがありますが、混雑した鉄道車両内や静かな室内で突然始まる節度のない会話を聞くのはいやなものです。「ほかのお客様の迷惑になるのでご遠慮ください」という自粛を求める鉄道各社の消極的なアナウンスでは、無視する人も出てくるというものです。他人の迷惑を省みない人も多く、中には「お願い事だからかまわない」と決め込む人もいるのではないでしょうか。シルバーシートを占有する人についての議論で、「ラッシュアワーに老人が乗るのが悪い」と発言した元上司の言葉が思い出されます。

 東京都交通局では今年3月、地下鉄などの車内で電源を切るよう求める放送を始めています。JR東日本も13日、新幹線、特急電車を含む全路線の車内放送を「混雑時は電源をお切りください」とすることにしました。JRでは、乗客の苦情が99年度には前年度の2倍の約200件に上ったことと、郵政省が満員電車でペースメーカーの誤作動の危険を指摘したことから使用禁止に踏み切ったとしています。

 「日本心臓ペースメーカー友の会」によると、現在心臓ペースメーカーの使用者は約30万人いるそうで、携帯電話が誤作動を起こしたという報告はないものの不安を抱えながら鉄道を利用している患者には朗報でしょう。

目次へ


■点滴用チューブの間違えで患者死亡/神戸の病院

 神戸市北区の真星病院で今年1月、パーキンソン病で入院していた同市内の女性(当時76)が、血管に栄養剤を誤って投与され、急性呼吸不全で死亡していたことが8日分かりました。同病院では、看護婦が胃への栄養剤用のチューブと血管点滴用のチューブを取り違えたのが原因である、としています。また事件の公表は遅れ、同病院が遺族に医療ミスの事実を説明したのは4月7日になってからで、警察に届け出たのは翌8日のことでした。

 病院側では「死亡の原因の大半は医療ミスにある」としてミスを認めていますが、届け出の遅れに対しては「遺族にきちんと謝罪するためのタイミングを逃し、警察にはその後に説明しようと思っていた」などと話しているようです。事件が起きてから対外的に公表しなければ、ミスを認めたことにはならないのですが、分かっていないようです。罪を感じるものの、できれば罰(法的な罰や社会的制裁など)を受けたくない、という保身意識が優先され、そのためには患者の家族への謝罪も法律も無視できてしまうモラル?が気になります。これはモラルの問題というよりも、最近の凶悪な少年犯罪にも通じるものがあるような気がします。

目次へ


■点滴ミスで1歳女児死亡/東海大病院

 神奈川県伊勢原市の東海大病院で、入院中の1歳6カ月の女児が看護婦から誤って内服液を点滴され死亡する事故がありました。病院の説明では9日、胃食道逆流現象などで入院していた女児に対し、看護婦が鼻から注入すべき内服薬を誤って静脈に点滴、容体が急変した女児は10日夜死亡したといいます。

 神奈川県は医療法に基づき11日、同病院に立ち入り調査し、同県警も業務上過失致死容疑で操作を始めました。県側によると、事故を起こした看護婦(22)は8日から10日にかけ2晩夜勤が続く予定で、夜間はこの看護婦1人で7人の子供患者の面倒を見ていたことが新たに分かったとしています。入院患者数だけでは看護の質は評価できませんが、同病院の看護体制の問題もあるかもしれません。

目次へ


■3倍の抗がん剤で患者死亡/癌研病院

 財団法人癌研究会付属病院(東京都豊島区)で昨年12月、医師の指示ミスで胃がん患者に通常の3倍の量の抗がん剤を投与、副作用で11日後に患者が死亡していたことが27日分かりました。同病院によると、末期がんの患者に化学療法を行ったが、担当の内科医が薬剤部に薬の種類や量、投与日などを指示する「指示表」に、1日だけ投与するはずの抗がん剤を3日連続して投与するよう記入してしまったといいます。患者は投与直後の20日から強い吐き気などを訴え、全身が衰弱し28日に多臓器不全と敗血症で死亡しました。

 同病院では抗がん剤の大量投与が医師のミスであることは認めていますが、患者の直接の死亡原因については「がんの悪化による複合的なもの」と説明しています。しかし状況から見るかぎり抗がん剤の多量投与が原因と思われます。しかし、診察、判断、処置、経過確認など一連の業務が論理的でもある病院からは、なぜか非論理的な言葉しか出てきません。調査すれば分かると思うのですが、おそらく過剰投与の事実を隠したまま解剖も行っていないため、死亡時の証拠が無いとでも思っているのでしょうか。患者の経過が分かるカルテの改ざんや職員の証言を防ぐ手だては簡単ではないし、いずれボロが出てしまうように思うのですが…。まるで子供の言い分けのような対応には、病院のレベルがうかがえます。

目次へ


■人工呼吸器停止で患者死亡/国立療養所沖縄病院

 沖縄県宜野湾市我如古の国立療養所沖縄病院は29日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で入院していた女性患者(64)の人工呼吸器が原因不明のまま停止、意識不明になった後死亡したと発表しました。

 病院によると3月27日午前11時ごろ、入院していた女性の人工呼吸器が作動していないことに定期検温で訪れた看護婦が気付いたが、女性は意識不明となっており、その後肺炎を併発し今月28日に死亡したといいます。人工呼吸器は電源、スイッチとも入っていたため停止の原因は不明としています。ただ人工呼吸器はメーカーの耐用年数を5年も越えており、ずさんな機器の管理があるようです。病院では「整備、点検はしており異常はなかった」と話していますが、「異状がなかった」という客観的事実は提示されていないので、なんともあいまいです。おそらく何もしてなかったか、点検していたとしてもメーカー認定(指定)のメインテナンス要項に合致したものではないでしょう。それよりも、整備、点検をしてもメーカーの仕様が保証されない機器であった可能性もあります。

 このようなニュースを聞くと、病院での品質管理の実態が想像できます。厚生省をはじめ病院関連事業者などは、申告や報告を求めるだけで、報告がなければ「問題なし」とする管理形態を取っているようです。これではマネージメントとはいえず、病院内の医療機器の校正管理がどのようになっているのか、考えるだけでも恐いものがあります。

目次へ


■医薬品、医療用具の事故防止対策/厚生省まとめる

 厚生省では内服液を誤って静脈に点滴するなどの事故が相次いでいることから、24日までに、医薬品と医療用具に関する分野での医療事故防止対策をまとめ、同日の中央薬事審議会の特別部会で、第三者機関が事故事例の収集、分析にあたることを柱とする対策の概要を示しました。それによると、情報の収集・分析にあたる「外部の報告収集機関」として、薬事被害者の補償問題などを扱う同省の特殊法人である「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構」が候補に挙がっています。

 外部の報告収集機関では、医療機関から医薬品や医療用具に関連する実際の事故や間一髪の事例を幅広く収集し、分析、整理したうえで厚生省に提供するとしています。同省では医療機関の匿名性などを確保する代わりに、第三者機関への報告を求め、数年後の報告制度の義務化も視野に入れています。

 医療現場での薬品、用具の安全は専門の人が使うためか安全性の配慮は一般生活用品とは大きく異なっています。このため4月10日東海大病院で起きた女児の静脈に内服液を誤って点滴した事故では、「内服液を入れる経口チューブの注入口と、静脈の点滴チューブの注入口が違う構造になっていれば防げた」との指摘が出ています。フールプルーフ構造の設計は電子、機械産業では当たり前なのですが、医療用具の安全確保の取り組みは遅れています。この背景には、ある意味では規制の厳しい職種の中で「役所にしたがうことが第一」、「法律だけを順守すればいい」という意識があるのでしょう。したがって、厚生省が事故事例を把握して具体的な改善案を出さないことにはメーカーは対策を講じない、というユーザー(患者)無視の姿勢になってしまうようです。

 医療用具でも生活用品でも実際に事故が起きる背景には人のエラーを誘う要因があり、生命に関る重大事故の恐れがあるときにはメーカーの取るべき道は一つでなければなりません。これは操作者がアマ、プロという問題ではなく、現実の社会で起こり得る事故を予防するための、社会的な企業責任です。

 さて個人的な体験からですが、採血などで使う注射器に差し込むT社製の容器の不良が多いことには驚きました。5本のうち4本が嵌合不良で採血できないこともありました。製造物としては考えられないような粗悪なものですが、病院ではメーカーに返品するだけで処理を終えているようです。病院の品質管理に関する知識がないため、メーカーに不良原因や改善・予防策の提示を求めることもしないのです。大手メーカーの独占的とも思える市場形成の弊害だと思いますが、その製品を支持する強力な有力者や圧力団体の問題もあるような気がします。

目次へ


■運輸省の船舶監査にばらつき/総務庁の行政監察で判明

 総務庁が26日にまとめた船員行政監察結果によると、1年間に運輸省から5回も立ち入り監査を受けた船舶がある一方で10年以上も監査を免れている船舶が27%あるなど、監査業務のばらつきが浮き彫りになりました。総務庁が1998年8月から2000年4月にかけて、運輸省の立ち入り検査の対象となった4,238隻を調査した結果、このうち45%が1年間に複数回の監査を受けており、8隻が年5回に上っていたということです。また同調が無作為に選んだ252隻を調べたところ、27%は10年以上も立ち入り検査を受けていないことも判明しました。

 運輸省の船舶監査は船員の労働条件をチェックするため、地方運輸局などに配置された船員労務官が船舶に対し、立ち入り監査で航海記録などをチェックするものです。これは監査対象とする船舶の選定基準が明確でないためで、当日に係留中の船舶の中から適宜、選定しているといいます。今回の監察結果の内容は、総務庁の指摘を受ける前に当然分かっていそうなもので、運輸省では、今まで自分たちが行った監査の質(善し悪し)を検証することはなかったのでしょう。

 監査を行うことを最終目的にしてしまうと、「何のために監査を行うか」の目的を忘れてしまい、その結果“やりっぱなし”の監査になってしまいます。

目次へ


■コンポスト(有機肥料)化の問題/塩害

 生ゴミの処理から有機肥料に再生して土壌に戻す取り組みが、コンビニ、スーパーやホテルなどで始まっています。食品の残りを農産物に再生するので「環境にやさしい取り組み」として評価できるのですが、生ゴミに含まれる塩分が再生される過程で濃縮され、肥料として多量に使用されると土壌汚染の「塩害」になることが分かってきました。現在わが国では、全国の農地のうち約3割が塩類過剰の状態にある土壌と見られ、県によっては5割を越えるところもあるようです。このため今後再生肥料を農地に使用するには塩類濃度の低いものを選別するなどしないと、農家では使用をためらうことになりそうです。

 2001年度から施工される「食品リサイクル法」では、コンポスト化の促進が盛り込まれていることから、土壌の専門家や生ゴミ処理の現場からは「塩害」を不安視する声があがっています。調理前の野菜くずや肉であればいいのですが、惣菜や弁当、加工食品などでは塩分が含まれるため肥料としてふさわしくない場合が出てきそうです。現に、ある大手スーパーが売れ残りの弁当などから再生肥料を生産し、それを提供した農家から「塩害」による損害賠償を求められたケースもあるといいます。堆肥を作るときにも「ワックス(毒)が付いた果物の皮は利用できない」とする考えがあります。再生肥料の品質は材料である生ゴミの質に左右されるという、当たり前のことが環境対応の取り組みの前では忘られやすくなっています。
 
 また再生肥料の需給がアンバランスのため、自治体によっては多くの在庫を抱えているところもあり、せっかくの再資源化の取り組みが姿を変えたゴミにもなりかねません。環境にとってリサイクルシステムは欠かせませんが、再生肥料の流通網の構築と最近開発されてきたゴミの完全消滅システムとのバランス、そして塩害問題と解決すべき問題は多いようです。

目次へ


終わりに

 医療機関での事件は後を絶ちませんが、彼らの釈明の根底にある自己最優先の人命軽視、安全無視の考えが気になります。一般企業でもこれからのマネージメントでは、犯罪心理学の分野からのアプローチも必要になるのかもしれません。

目次へ


[ ASP ホームページ ] [ ASPニュース2000 ]

Google
  Web ASP