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2000.6 No.78  発行 2000年6月12日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

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■携帯電話の電磁波、法規制/郵政省、来春から
■ナタネで放射能汚染除去/ベラルーシ
■医療事故・ミスの自主公表/国立大病院ガイドライン
■看護記録開示のガイドライン/看護協会作成
■三井海上、医療ミス防止業務に参入/リンクスタッフ、リスク管
 理手法の提供
■化学物質のMSDS公開/富士ゼロックス、HP上で
■環境情報開示する企業少ない/環境庁のアンケート調査
■環境ISO、農業分野での関心高まる
■交通バリアフリー法成立


5月のニュースから

■携帯電話の電磁波、法規制/郵政省、来春から

 現在携帯電話からの電磁波については、国際非電離放射線防護委員会が頭部への吸収量を「体重1キロあたり2ワット以下」となるように示した値を基にした、電気通信技術審議会のガイドラインがあります。業界ではこのガイドラインに沿って自主規制を行ってきましたが、今まで法的規制はありませんでした。郵政省では「標準的な測定法がない」として法規制の導入を見送ってきましたが、22日、同省は電磁波の発生量を2001年春の電波法改正で規制することを表明しました。新たな規制値は現在のガイドラインと同じですが、今後携帯電話会社やメーカーが新機種を出す際、電磁波の頭部への吸収量のデータ提出が義務づけられることになりました。また規制値のガイドラインはあったものの測定方法が示されていなかったため、同省は同日、電磁波の統一的な測定方法を測定するよう電気通信技術審議会に諮問し、欧米で測定方法の標準化が完了するを待ち、11月頃をめどに答申する予定です。

 欧米諸国では子供の脳への影響を危惧する研究報告を受けて、測定方法だけでなく電磁波の基準値自体をより厳しく見直す動きが始まっています。郵政省・電磁環境課では「今回の諮問は、基準値の見直しにはつながらない」としていますが、安全か非安全かのレベルが確定していないのに現行の基準値が正しいとする発言のようです。今回に限ったことではありませんが、安全の考え方では欧米の後を遅れて歩んでいるように感じられます。多くの知見を得て常に検証し続ける、科学的なものの考え方の基本ができていないのでしょう。それでも同省では後ればせながら、米国、フランス、ドイツなど13ヶ国が参加するWHOの研究機関の疫学調査に今年9月から参加することにし、脳腫瘍患者と健康人を対象に携帯電話の使用状況を聞き取り調査するなど予定しています。このような同省の取り組みは科学技術庁が昨年から始めた、白血病と脳腫瘍の子供を対象に送電線から自宅までの距離や、家電製品の使用状況、母親が妊娠中に携帯電話をどの程度使ったかをチェックする大がかりな疫学調査を始めたことが影響している、ともいわれています。健康問題に世界の関心が高まっている中、「普及優先」との批判も聞こえてきますが、やむなく電磁波の健康問題を真剣に考え始めたようです。

 考えてみれば、郵政省が人の安全・健康問題の技術基準を定めることが妥当かどうかも気になるところで、携帯電話が通信事業であることだけで同省が安全基準を作ること自体おかしなものです。他の機関が定めた基準を規制値として採用することは分かるのですが、製品ハードの技術的対策は通産省、人の健康レベルのデータ収集・分析は厚生省の管轄などと考えてくると、郵政省は郵便・通信事業の周波数割り当てなど制度の確立や業界指導だけでいいのかもしれません。製品の安全性や国民の健康など、国民生活の総合安全レベルを定める総合安全省なるものがあれば、そこで定めた基準を関連省庁がが業界と協力し、製品や制度などの仕組みを改善するスリムな行政になると思いますが…。

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■ナタネで放射能汚染除去/ベラルーシ

 チェルノブイリ原発事故により放射能汚染されたベラルーシで、この秋からナタネを栽培して土壌汚染を除去するプロジェクトが国際原子力機関(IAEA)の協力で本各実施されることになりました。

 ナタネは放射性物質のセシウム1370を吸収するので土壌の放射能汚染の除去に有効だといいます。またセシウムは油に溶けないため、ナタネ油が採取でき、それを販売することで汚染対策の資金が得られる一石二鳥の取り組みです。葉や茎などの搾りかすは、低レベル放射性廃棄物として汚染地域の土中深くに埋めることになります。IAEAはベラルーシ政府とともにこの4年間、汚染が深刻な南東部のゴメリ周辺の2万7,000ヘクタールにナタネを栽培して事前調査を進めてきました。今年9月に完成予定のゴメリの実験工場で料理用油の生産を開始する予定で、将来は最大20万ヘクタールの汚染地域にナタネを植える計画でいます。

 微量ながら放射性物質が存在し放射線の被爆がある地球上の生物には、思わぬ働きがあるものです。生物はある目的のための生産工場でもありますが、環境の変化にどのように対応するのかはよく分っていないのが現実です。自然を観察し学ぶことが大事なことなのでしょう。

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■医療事故・ミスの自主公表/国立大病院ガイドライン

 厚生省が中央薬事審議会に4月末報告した主な医療事故は、昨年1月から今年4月までに43件あり、うち30件で死者が出ています。国立大学医学部付属病院長会議の「医療事故防止方策の策定に関する作業部会」は最近の相次ぐ医療事故を受けて、予定より半年早く16日に中間報告を発表しました。全国42施設の国立大病院の院長全てが参加している病院長会議がまとめたことから、今後全国の国立大病院で安全管理体制の整備が進むことになりますが、他の医療機関の参考にもなるでしょう。

 報告書は各部門に安全管理担当職員を配置する、といった事故防止策を求め、事故後の対応では「国の機関は社会に対する説明責任を果たさなければならない」とし、重大な医療事故が発生した場合は、「進んで事故の事実を正確かつ迅速に公表することが必要」と明記しました。また病院側の明白で重大な過誤については責任者が素直に謝罪し、患者や家族から求めがあればカルテなどを開示すべきだ、と示しています。刑事責任が問われる可能性がある場合は、警察に届け出るほか、判断に迷う場合でも連絡するよう求めています。

 これまで明らかになった死亡事故で病院側が自発的に公表したケースは少なく、警察への届け出があったものや、関係者の内部告発、家族の訴えなどのきっかけがなければ表に出てこなかったものが多いといわれています。今後の病院の社会的責任(感)に期待したいと思います。

 また事故だけでなく“ヒヤリ・ハット”した「ニアミス」も含めて報告(インシデントレポート)する制度を求めている点は注目されます。しかしセクショナリズムが強い医局間の問題や、看護部や他の部門との連携上の問題に対処するマネージメントシステムを構築する必要があるなど、前途は多難なようです。

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■看護記録開示のガイドライン/看護協会作成

 「日本看護協会」は26日、職場での看護記録整備のノウハウなどを盛り込んだ「看護記録の開示に関するガイドライン」を発表しました。看護記録は診療情報の一つであるという認識で、患者と医療従事者の信頼関係を築き、患者が自分の健康問題や治療を理解しセルフコントロールができるようにすることを目的としています。また、最近の医療事故にかかわる訴訟では法的資料になることを踏まえ、具体的な記入方法について定めるマニュアルの必要性を説き、前もってこれから行う処置やケアを書いてはならない、実際に見ていない患者の記録をしない、患者のケアに関係のない攻撃的表現をしない、などの注意点を挙げています。

 患者と病院看護との信頼関係を深めるにはいい取り組みですが、記録の質を上げるには現場の勤務体制の改善も求められるべきでしょう。日本の100床あたりの看護婦数は約42人で、米国の五分の一、ドイツの半分といわれ、その上多くの病院では日勤、準夜勤、深夜勤、半夜勤など昼夜逆転の勤務体制が多く、若い人でも「常に時差ぼけ状態」、「朝方は注意力が散漫になる」などの声が聞かれます。それに加えて医療機器の高度化も、看護婦の負担に拍車をかけているという指摘もあります。このような中、積極的に患者の安全確保に向けて取り組みを始めた病院もあります。

 神奈川県平塚市の平塚共済病院では、看護婦を10人増員、全病棟で3人夜勤体制とし、今まで看護婦の仕事だった病棟での注射薬の準備や患者への服薬指導を薬剤師が行うことにしました。そこには同病院の「費用は数千万円膨らむが、患者の安全には代えられない」という、明確な安全ポリシーが見えます。患者の生死に直結する業務でありながら、「経費がかかる」という理由で安全策を講じられない病院には、本当の安全ポリシーはないのでしょう。

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■三井海上、医療ミス防止業務に参入/リンクスタッフ、リスク管理手法の提供

 病院などの医療ミスを防止するためのビジネスが動き始めたようです。三井海上火災保険は15日、医療機関向けの相談業務を子会社の「インタリスク」を通じて本格参入することを明らかにしました。最近の医療機関での患者の死亡事故が増えていることに加え、この4月から導入された公的介護保険により、介護に関る医療過誤が今後予想されることから、損害保険のリスク管理のノウハウを活用し事故防止に役立てるとしています。相談業務は病院、診療所、訪問看護ステーションなどを対象に、投薬、点滴の間違い、手術患者の取り違えなどを防ぐチェック体制整備に向けた計画を立案し、リスク管理推進部署の設立、運営に関するアドバイスをします。また、医師、看護婦向けの事故予防マニュアル作成の手助けとともに、事故防止に向けたセミナー、勉強会の開催、事故発生に備えた警察への連絡、患者や家族への対応などを定めた緊急時のマニュアル、示談、訴訟への対応策などの作成も支援するとしています。

 一方、医療関連サービスのリンクスタッフは東京海上火災保険と提携し、診療所向けにリスク管理手法を提供するサービスに乗り出しました。提供するのは医療ミスを防ぐためのカルテの記載方法などを盛り込んだ医事紛争防止マニュアルを使った診療所の職員向け研修の実施、医療事故の勉強会の定期的な開催です。患者からのクレームにはリンクスタッフ社員や提携弁護士が問題解決にあたるというものです。勉強会では医事訴訟に詳しい弁護士が実際の医療事故や紛争例を取り上げて勝訴や敗訴の原因などを解説するとしています。

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■化学物質のMSDS公開/富士ゼロックス、HP上で

 富士ゼロックスは11日、トナーや感光体などの製品に使用している化学物質に関する製品安全データシート(MSDS)を15日からホームページ上で公開すると発表しました。公開するのはトナー、感光体などのMSDS約200種類で、使用している化学物質の一般名称、危険有害の種類、危険性、有害性、環境影響、応急措置、安全対策、緊急時の対応などが掲載されます。

 トナーや感光体などの消耗品は危険・有害な製品ではないのですが、化学物質排出管理促進法(PRTR)の成立などで企業には化学物質に関する情報を積極的に公開することが求められていて、同社ではその対応のあり方として始めるようです。事務機器、複写機業界では初めてのことだといいますが、ユーザーからの問い合わせにもHP掲載の情報で対応できるのであれば、社員で回答する手間も省けるメリットもあるようです。

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■環境情報開示する企業少ない/環境庁のアンケート調査

 環境庁が昨年11月に実施した「経済的手法を活用した環境保全に関する意識調査」で、「環境について情報開示する企業が少なすぎる」という結果が明らかになりました。調査は同庁が委嘱している1,500人の環境モニターを対象に行ったもので、有効回答は1,271人でした。この中で企業の環境対策の取り組みに対する意見では、「情報開示が有意義」(94.3%)で、この理由として「開示に積極的な企業ほど環境に熱心と評価できる」(47.4%)、「全ての分野で開示は重要」(28.2%)、「開示しない企業は環境問題を抱えていると判断できるから」(20.9%)と続きます。
また企業が開示する情報量については、「開示している企業が少なすぎる」(65.4%)となり、「一社あたり開示する量が少なすぎる」(14.5%)を合わせると79.9%の人か情報の不足を感じていることになります。一方開示する内容では「企業に都合の良い情報が多く、信用できない」(57.4%)、「各社の内容がばらばらで比較できない」(28.2%)、「内容が難しく、理解できない」(7.9%)などと開示方法の問題点を挙げています。

 確かに企業の環境対応を消費者にPRするときには、「他社よりも勝れている」という競争心からかデメリット情報はなかなか出ず、企業に都合の良い情報が多くなるのも当然のことだと思います。謙虚に現時点でのデメリットを明らかにし、将来的な改善スケジュールを提示したほうが消費者には分かりやすいし、また企業への信頼度も増すように思います。最近環境会計を導入・公開する企業が増えてきたのですが、環境庁の環境会計のガイドラインがあるものの第三者の監査を伴わない場合は、開示内容に企業側の意図が反映されてしまいます。

 ところでNECは30日、2000年版の環境報告書をまとめましたが、今回は環境NPO法人の環境文明21が企画段階から参加したことが注目されます。NECは情報の透明性と信頼性を高めるため、中立的な立場の同NPOの助言や提案を受け入れ、99カ所を手直ししたといいます。化学物質に関しては全社の使用・排出量を総量で示す従来の表示方法を改め、34の物質ごとの開示に変更、産業廃棄物も総量ベースから19分類に基づく個別の廃棄物ベースに切り替えて処理費用を開示しました。工場などで発生した環境関連事故では、「社外に影響した事故」、「社外に影響しなかった事故」、「近隣からの苦情」の3項目に分類し、件数、事故内容、対処方法を公開しました。また、これまでの報告書は「問い合わせ先が不明瞭」との指摘も受け、項目ごとに担当部署の問い合わせ先を明記しました。

 環境情報を誰のためにどのような目的・ポリシーで公開するのか、企業によりそう大きな隔たりはないように思うのですが、本音の違いが出てくるものです。私たちは社会、消費者の利益を考えている企業を見極める目を持つ必要があります。

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■環境ISO、農業分野での関心高まる

 環境問題に敏感なはずの農業生産者ですが、ISO14001の認証取得の取り組みはまだまだ遅れています。収益優先にならざるを得ない小規模農業では、「環境のことを考える余裕はない」と言うかもしれませんが、その割りには「国内米が安全」、「地元の農産物が安全」などのうたい文句が並びます。本当に安全なのかはなはだ疑わしく、農薬を使用しても何が安全かの根拠を明示しないイメージ便乗商法は、一部の悪徳企業のようでもあります。そのような業界?でも最近は環境ISO取得を目指す動きが出てきました。

 愛媛県のかんきつ類農業生産法人の無茶々(明浜町)は、今年10月をめどにISO14001の認証を取得する準備を始めました。無茶々は生産者約50人の組織で90haの農地で年間約1,500トンのかんきつ類を生産、農薬や化学肥料の使用を減らすなど、環境負荷の少ない農業を目指しています。また、山形県の農業生産法人ファーマーズクラブ赤とんぼ(川西町)は、ISO14001をこの夏にも取得する予定です。生産者70人で組織する同クラブは農薬の使用削減や農業生産で発生した廃棄物の減量化・リサイクルなどの方針を掲げています。

 一方、認証業務を行う企業も現れました。有機農産物の認証業務を手がける農業食品監査システム(東京・中央)は今年4月、農業・食品分野を専門に環境ISOの認証業務を行うAFAS認証センター(東京・中央)を設立しました。来年始めにもJAB(日本適合性認定協会)に申請することにしています。

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■交通バリアフリー法成立

 公共交通機関を利用する高齢者らの利便性や安全性の向上を促す「高齢者、身体障害者の公共交通機関を利用した移動円滑化促進法」(交通バリアフリー法)が10日参院本会議で可決、成立しました。駅や空港、バスターミナルなどの公共交通施設の新設や大規模な改良をする際にエレベーター、エスカレーターの設置などを義務づけるものです。また新規に購入する車両には低床バスの導入なども求めています。運輸省では、今後10年間で設備を改良する駅など施設の数値目標を固め、今後事業者に協力を要請することにしています。

 法律は11月ごろには施行される予定ですが、既存の施設には関係ないので、あくまでも事業者の考え方に左右されます。しかし公共交通事業者はこれを現在の社会要請と考えて、今困っている人のために積極的な施設の改善を行って欲しいものです。

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終わりに

 最近はバーコードや商品名が記載されたラベルがあらゆる商品に使われていますが、ラベルを剥がした後の剥離紙についてはあまり考えたことがありませんでした。ところが剥離紙の回収量は年間で10億平方メートル、重量換算で10万トンにも上るようなのです。剥離紙の中には特殊な薬品がコーティングされて再生できないものもありますが、全体の50―60%は再生可能といいます。ところが最終ユーザーは剥離紙を古紙原料にできることを知らずにゴミとして処理するケースがほとんどのようです。

 このような状況下、全日本シール印刷協同組合と印刷用粘着紙メーカー会では、最終ユーザーからの相談を受け、剥離紙の古紙回収ルーとづくりに乗り出しました。両者では最終ユーザーや古紙回収業者にPRするとともに、最終ユーザーに再生可能剥離紙への切り替えを訴えていくとしています。現在、モデルとして静岡県内で製紙会社に回るルートを確立、リサイクルを促進することになりました。環境対応では複数の会社や業界の協力が欠かせないということがよく分かります。

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