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2000.7 No.79  発行 2000年7月12日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

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■30万円で原告と和解、マクドナルド/異物混入PL訴訟
■ハム回収騒動は検査ミスでO157付着/埼玉、川越保健所
■車輪アンバランスが最大原因、日比谷線脱線事故
■衝突安全のコンパチビリティー研究に着手
■がんを否定する病理検査を無視、2人の乳房切除/牧方市の病院
■医療事故防止の投薬器具開発/ニッショー、テルモ
■ディーゼル車の黒煙検査/運輸省、主要都市で
■市販弁当の環境ホルモン汚染/厚生省公表せず


6月のニュースから

■30万円で原告と和解、マクドナルド/異物混入PL訴訟

 マクドナルドの「ダブルチーズバーガーセット」のオレンジジュースに入っていた異物でのどにけがをしたとして、40万円の損害賠償を同社に求めていた訴訟は、製造物責任(PL)法上の裁判ということで注目を集めていました。名古屋地裁の一審判決では「ジュースを飲んだ直後に傷を負っていることなどから、傷の原因は混入した異物」と認定、「製造工程を検討すると異物が混入する可能性は否定できない」とし、同社に10万円の支払いを命じました。その際「異物が何かは分からないが、混入の事実が明らかである以上、飲料の欠陥の判断には影響しない」と述べ、ジュースを飲んだためにけがをしたという事実から「飲んだジュースに欠陥があった」と認定しました。その後同社は控訴していたのですが、23日、名古屋高裁で30万円の解決金を支払うことで和解が成立していたことが分かりました。

 一審の判決10万円を上回る30万円の和解金で決着したのは珍しいといわれています。おそらく原告が求めていた40万円よりも少ない一審判決の10万円に対する原告の気持ちを考慮する方が、今後も裁判を続けることの不利益よりも優先したのだと思います。弱者であった被害者も最近ではインターネットなどで主張することが可能になるなど、企業にとっては社会状況の変化が厳しいこともあり、裁判の結果(勝ち負け)を重視するのではなく、企業リスクを最小とする柔軟な姿勢へと変化しているようです。

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■ハム回収騒動は検査ミスでO157付着/埼玉、川越保健所

 埼玉県生活衛生課が20日、県内の2つのメーカーが製造したハムやソーセージなど3種類から病原性大腸菌O157が検出されたため回収命令を出しましたが、埼玉県は30日になり回収命令を取り消し、メーカーに謝罪するという事態となりました。

 検出されたO157は保健所で検査用に保管されていたものが、何らかの原因で商品に付着したとのことで、慎重かつ正確な検査をするための標準類の有無や現場の管理のずさんさが見えてきます。メーカーも県に対し保証を求める意向のようですが、自社ブランドで販売していたジャスコは100億円以上の損害賠償を求める考えを表明しています。恐らく保健所の担当者の些細なミスだと思うのですが、県にとっては大きな支出となり、安全や品質問題に関わる業務の重大さを再認識したのではないでしょうか。

 ところで埼玉県は販売済みの商品からこれまでに食中毒などの健康被害の報告が皆無だったのに疑問を持ち、保健所の菌と3商品の菌のDNAパターンの解析を国立感染症研究所に依頼していました。その結果保健所の菌と同一パターンの菌であることが判明、保健所内で商品に菌が付着したことが判明したものです。この結果、回収命令の取り消しが早く行われたのは評価できることでしょう。時間と供に被害者が急増する食中毒では、早めの回収命令が大事ですが、その検査データの検証も併せて行う難しさもあります。保健所のずさんな管理で回収命令撤回という不本意な結果でしたが、埼玉県のフォローはまあ良かったのではないでしょうか。

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■車輪アンバランスが最大原因、日比谷線脱線事故

 ラッシュ時の営団地下鉄日比谷線で起きたショッキングな脱線衝突事故は、運輸省鉄道事故調査検討会が24日、中間報告書をまとめ公表したことでとりあえずの一区切りとなりました。報告書はこれまでの再現走行実験などの結果を踏まえ、車輪にかる荷重のアンバランスが脱線を呼び起こした最大原因と結論づけました。

 報告書は「それぞれ単独では脱線は誘発せず、同時に作用し影響が複合的に絡み合った」とし、推定原因として@左右の輪重アンバランスAレールの摩擦係数増大B緩衝装置(バネ)の硬さなど台車特性C騒音防止などを目的に薄く削られたレール形状の4項目を挙げています。脱線した最後尾車両は製造時から輪重のアンバランスがあった上、営団は事故までの約12年間、輪重の測定調整をしていませんでした。しかし輪重の測定や調整をしている鉄道会社はほとんどないのが現状だというので、営団の過失とはいえないようです。また他の同型車両を調べたところ、左右の輪重に30%近い差がある車両があることも判明しました。

 複数の原因が絡んだ事故ということですが、脱線の明確な原因については科学的には解明できなかったようです。したがって鉄道の脱線防止策というのは経験的に安全と思われる状況で営業していることになり、カーブに脱線防止ガードを設置する方法など確実に脱線を防ぐ方法が重要視されます。このため、営団のガード設置基準がだんだん甘くなってきたのは、説得力のある根拠がない限り安全軽視と受け取られても仕方のないことでしょう。検討会では今後要因ごとの具体的な対策の検討を続け、9月をめどに最終報告書をまとめることにしています。

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■衝突安全のコンパチビリティー研究に着手

 自動車の衝突安全性能は固定障壁を使った試験手法の普及により急速に向上してきましたが、現実の事故では大型車が小型車に乗り上げてしまう例や、同じ大きさの自動車でも構造部材の取り付け位置が異なる例など、自動車が本来の衝撃吸収性性能を発揮できないケースが数多くあります。このため日本自動車工業会は自動車の衝突安全性の新たな評価基準となるコンパチビリティー(相互有効性)の研究に着手しました。これは大きさの異なる自動車同士が衝突した際の衝撃吸収性能を評価するもので、従来の固定障壁を利用した試験よりもより現実に近い形で評価できるものです。3年計画で実体調査と課題を抽出、5年後程度と予想されている世界統一基準への準備を進めることにしています。

 各自動車メーカーもすでに対応を初めていて、本田技研工業では衝突安全基準の強化を5月に表明、時速50キロで走行する車同士が正面衝突しても乗員が安全な水準を確保するよう今秋発売の小型乗用車シビックから新基準を導入、世界最高水準の安全技術の確立を目指すとしています。

 また富士重工業でもコンパチビリティー研究を進めることにしています。同社では軽自動車の強度を確保するため、すでに現行プレオでフロントサイドメンバーやフロアサイドメンバーを強化しています。大きさの異なる自動車同士の衝突事故では、運動エネルギーが重量に比例するため、小型車はより大きな衝撃を吸収する必要があり、現在の技術では重量比1.5倍程度での安全確保が当面の限界との説もあります。しかし富士重工業では重量850キログラムに2人乗車のプレオと、同1,500キログラムで3人乗車のレガシィーの衝突という、約2倍の重量比でもプレオ側の乗員保護にメドをつけているといいます。

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■がんを否定する病理検査を無視、2人の乳房切除/牧方市の病院

 東京医科歯科大の投薬ミスでの脳障害事故など医療事故は相変わらず続いているのですが、これらはいわゆる「ミス」であり、故意に事故を起こしているものではありません。ところが大阪府牧方市の牧方市民病院(山崎国暉院長)では、ひどいことが行われていたようです。

 同病院では1996年と98年に病理検査のがん性を否定する結果を無視し、外科医が乳がんの手術を続行、患者2人の乳房を切除していたことが、1日分かりました。
乳がん手術では、手術前に病理検査をするのが普通ですが、2例とも手術中に検査を実施、しかもカルテの病理検査結果を隠すなど、改ざんまがいの行為も行われたといいます。大阪府警も山城院長らの事情聴取を始めました。病院は会見などで事実関係を認め、今後調査委員会を設け、同様のケースがないかを含め詳しく調べることにしています。

 病院によると、患者は70代と60代の女性で、外科医は当時の院長(現在の名誉院長で顧問)でした。名誉院長は98年末、視触診と超音波検査で70代の女性を乳がんと診断、手術開始後すぐに腫瘍の組織を採取し、数十分で結果がでる病理検査に回しました。まもなく手術室に「悪性腫瘍ではない」との結果が伝えられましたが、名誉院長は検査結果を無視し片方の乳房を完全に切除してしまいました。さらに手術の数日後、精密な病理検査で「組織の繊維化」というがんを完全に否定する結果が出てカルテに検査報告書が貼られたのですが、別の検査データが上から貼られ、見開きのカルテ自体が開かないようにのりづけされてしまいました。また、60代の女性も、名誉院長が96年冬に乳がんと診断し、同様に手術中に「がんと疑わしい細胞があるが、確認が必要」という病理検査の結果が報告されたのを無視、乳房の一部を切除されてしまったものです。

 困ったことに同病院では、2年前に食道がんの手術後に容体が急変して死亡した男性患者の看護記録が、同じ名誉院長の指示で改ざんされた疑いが浮上、同病院では4日までに調査を始めています。

 病院によると、男性は1998年4月21日に食道がんを摘出する名誉院長の手術を受け、5日後に人工呼吸器を抜いた後に容体が急変、心肺停止状態の患者に蘇生措置を施したものの5月中旬に死亡しました。家族には「たんを詰まらせ、容体が急変した」と説明していましたが、看護記録が改ざんされたとの外部からの指摘があり、同病院が外科婦長に確認したところ、「名誉院長の指示を受け、看護記録が改ざんされた」などと話したといいます。

 医師が確かな確証に基づいた診断を行っていれば、自分の診断を正しいものだと確信するのは当然ですが、名誉院長の行動は院内の意見や科学的な検査結果を無視する横暴なもので、およそ人の命を預かる職務には適さないものでしょう。自分の利害に影響が出るのを恐れるあまりミスを隠し、そのためなら犯罪行為にもおよぶ愚かな人間ですが、患者から見ればたまったものではありません。カルテの改ざんなどが病院で行われていることを聞くと、医療行為に従事する人、特に医者は常に真実を優先する科学的なものの見方と、人間的にも優れた資質が要求されべきものだと思います。医者には基本的倫理感の育成を必須条件とすべきでしょう。

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■医療事故防止の投薬器具開発/ニッショー、テルモ

 以前から指摘はあったものの最近の医療事故から医薬品・医療用具の安全対策が求められてきましたが、点滴チューブの接続間違いによる事故防止策ではニッショー、テルモの大手2社の商品が投入されるなど動きが活発になってきました。ニッショーでは今年4月21日に承認を得て5月前半に注入口直径を点滴口より大きい6ミリの接続部の胃腸向け専用器具を発売、6月中頃までに約5万セットを出荷しています。テルモも6月2日には承認を取得し、7月からニッショーと同じ直径6ミリの誤接続防止器具を発売します。ニッショーの点滴事故防止器具は1997年から開発を始めたものだといい、1歳6カ月の女児の死亡事故を起こした東海大病院でも要望していたものだといいますが、メーカーから承認連絡を受けたのが死亡事故の次の日という皮肉な結果となってしまいました。

 相次ぐ医療事故に厚生省もようやく動き始め、「製品開発は事故防止に配慮し、既存製品も積極的に改善を」との通知を4月末に出しました。これまでメーカーには病院からの要望はありましたが、国からの要望は初めてのことといいます。5月には「医薬品・医療用具等関連医療事故防止対策検討会」を初めて開催、点滴チューブの接続間違いによる事故の防止策として、誤接続を防止する専門器具を積極的に普及させていくことを確認しています。

 メーカーは今まで安全な医療器具について「医療機関からの要望が少なく、作っても採算がとれない心配があった」というように、安全な製品の開発には積極的ではなかったようです。ちなみに点滴事故防止器具を一足先に発売したニッショーでは、生産が追いつかないほどヒットし、大館工場の設備増強も検討しているといわれます。また注射器の注入時の取り違えを防ぐため、始めから名前付きで注射器に入れた薬剤も飛ぶように売れているということです。一般の製造業では当たり前のことが、多くの医療過誤の中からようやく病院や医療器具メーカーにも伝わってきたようです。しかし現在は他者に追従しているような向きもあり、患者の犠牲の前に改善策や予防策を講じることのできる、本当の顧客重視・品質重視の体質になって欲しいものです。

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■ディーゼル車の黒煙検査/運輸省、主要都市で

 東京都の石原知事の決断から始まったディーゼル車の排ガス(黒煙)規制論議が自動車・石油業界や自治体を巻き込み、2005年には現行の粒子状物質を十分の一にする規制前倒しの動きなど、歓迎できる状況が続いています。このような中、運輸省では6月1日から全国の主要都市を中心に大型トラックの排ガスに含まれる黒煙濃度の集中検査を1ヶ月間実施すると発表しました。高速道路のインターチェンジや、交通量が多い国道など幹線道路の中から選んだ約90カ所で調べることにしています。運輸省のこのような大規模な街頭検査は始めてのことで、基準値を超える車両にはフィルターの交換など整備命令を出して改善を求めるとしています。

 坂道で黒々とした黒煙を出している整備不良の車を見ると、思わず車間をあけてしまいますが、運転者は気にならないのかその無神経さにも少々腹立たしいものを感じます。彼らへの啓発活動としても、運輸省の検査はこれからもたびたび行って欲しいものです。

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■市販弁当の環境ホルモン汚染/厚生省公表せず

 厚生省食品化学課が、市販弁当から環境ホルモンの作用が疑われる物質が高濃度で検出されたとの報告を受けながら公表を見送り、その一方で関連業界団体には内々にデータを示して対策を促していたことが5日明らかになりました。報告したのは国立薬品食品衛生研究所などで、コンビニなどの市販弁当や、食堂の食事などを対象に、塩ビを加工しやすくする可塑材のフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)などの物質の濃度を調査しました。その結果調査した弁当全てからDEHPが検出され、弁当一食あたり数ミリグラムを検出したサンプルもあり、この値はEUが定めた一日耐容摂取量(体重50キロの人で、1.85ミリグラム)を一食分で超える濃度でした。また汚染源は、調理時に使用した塩ビ性の手袋であると見られています。

 関係者によるとこの報告を受けた食品化学課は、内容の公表を避けながら一方では2月に手袋メーカー団体の関係者を同省に呼び、「まだ内密のデータだが」とした上で「前年度に比べて非常に高い値が出ている。数字が明らかになると業界も混乱するのではないか」との趣旨を発言し業界に対策を促したといいます。

 調査は昨年8月から12月にコンビニ10店舗の弁当、レストラン10店舗の定食と3病院の給食で行われたもので、弁当からはDEHPが1グラム当たり803−8,930ナノグラム検出されました。また調理に使われた塩ビ製手袋には材質を柔らかくするため、重さにして全体の41%にあたるDEHPが含まれていて、これで切り干し大根の容器を移し替える作業をしたところ、作業前の平均同37グラムから作業後は同1万1,100ナノグラムになったといいます。

 厚生省では14日の食品衛生調査会毒性部会・器具容器包装部会合同部会で報告、各都道府県などに対し、塩ビ製の手袋が食品に直接触れる使い方は避けるよう通知しました。
塩ビ製の使い捨て手袋は使い勝手がいいため学校給食の調理現場でも多く使われているものです。しかし環境ホルモンの問題が明るみに出た今月1日から安全性の検討を開始したところも多く、「疑わしきは使わず」との考えから早々と代替品としてポリエチレンや天然ゴム製の手袋へ切り替えるところも出てきています。

 それにしても厚生省が調理使用の自粛を求めるほどの事態に対し、なぜ早くから業界には知らせ国民には知らせなかったのか、その対応には疑問が残ります。省庁が情報を公表しない常とう文として、「国民が混乱するから」というのがありますが、混乱するかどうかの正確な検証もなしに頭から決めつけていることが多く、人をバカにした話だと思います。情報開示の動きが当たり前の今、「安全は我々が見ているから、国民は何も知らなくてもいいのだ」という時代錯誤の考えがまだあるのでしょう。しかし、このような省庁の態度が国民の信頼を阻害させ、遅れた情報により過敏な反応をとることのリスクを気にすべきなのに、どうも彼らは考えていないようです。もう少し賢こい役人になって欲しいものです。

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終わりに

 雪印の「低脂肪乳」が発端となった事件は今もなおニュースの中心ですが、初期対応の遅れや物事を隠す体質が招いたリスクマネージメントの欠落した企業の良い例だと思います。異常を訴えた消費者を軽視し回収の対応が遅れ、事実を正しく報告しないなど事態はさらに拡大し、経営の危機感もうかがえます。現場の管理状況をトップが把握しないで「HACCP(ハサップ)認定工場だから製品は安全」と思いこんでいたようですが、品質マネージメントでは現場がルール通り作業を行っているかを常に検証しているのが当たり前のことです。経営トップが何を根拠に自社の製品の安全性や品質を論じることができるのか、おそらく雪印社内では誰も考えていなかったのでしょう。

 自動車や家電製品などの企業ではあまり聞いたことがないような同社の失態は、食品業界全体、厚生省にも何か内包された問題がありそうです。

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