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2000.12 No.84  発行 2000年12月11日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

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■国に排ガス差し止め命令/名古屋南部公害訴訟判決

■滑走路誤進入、原因は人為ミス/シンガポール航空機事故

■建設資材運搬が原因?/アルプス・ケーブルカー火災

■ジェットバスで女児死亡/髪が吸い込まれて溺死

■ファイアストンタイヤとフォード車の因果関係/ブリジストン中間報告

■JR6社、運賃表示ミス769駅/257駅で運賃取り過ぎ

■サンタ虐待CM放映取りやめ/米ソ二ー系企業

■ホルムアルデヒド、住宅の半数で基準値越える/シックハウスシンポジウム


11月のニュースから

■国に排ガス差し止め命令/名古屋南部公害訴訟判決


 自動車の排ガスと企業の工場排煙で健康を害したとして、総額約42億円の損害賠償と環境基準を越える有害物質の差し止めを求めた名古屋南部公害訴訟の判決が27日、名古屋地裁でありました。北沢彰功裁判長は、排ガス・排煙と健康被害との因果関係を認め、国と企業側に対し原告111人に総額約3億700万円を支払うよう命じ、さらに一部地域では、国の環境基準(1G当たり0.1J)の1.59倍を越える浮遊粒子状物質(SPM)の排出差し止めを命じました。

 判決は、「国道23号が全線開通した72年以降、沿線の20メートル以内ではSPMによる汚染で住民が気管支ぜんそくを発症したか、症状が悪化した」として、SPMを含む排ガスと気管支ぜんそくの因果関係を認定しました。さらに「国の公害防止対策も調査すら怠り十分とは言えず、社会生活上受認すべき限度を超えた違法な権利侵害」と国の対応を厳しく批判しました。また、工場排煙については「硫黄酸化物による大気汚染と住民の呼吸器疾患患者との因果関係を認める」として、1961年から78年までに発症・悪化した患者について企業10社の過失責任を認めました。

 自動車の排ガス差し止めを認めたのは今年1月の尼崎公害訴訟判決に次いで2例目で、現在係争中の他の裁判にも影響が出るものと見られています。また尼崎公害訴訟では12月2日になり、和解を拒否していた国が患者側との和解に合意するとのニュースが飛び込んできました。これらの動きは深刻な健康問題が起きている場合、排ガス対策として道路の使用制限も必要だ、という考え方を定着させるものでしょう。「国が規制しないために住民の健康を考えて対策を進める」とする石原東京都知事に合流する大きな流れが生まれようとしています。

 一部産業界の反対が根強いディーゼル車排ガス体策ですが、「産業界が国民の健康被害の上に成り立っている状況は許さない」という当たり前のことが認められたということでしょう。「できない」「無理だ」という反対ばかり唱えるのではなく、人・企業は難しい宿題を与えられれば知恵を出すものです。現在必要とされるコストを大幅に削減できることは、過去の環境対策などからも明らかなことで、このような競争が企業を強くしさらに大きな利益を得ることになるものです。したがって企業に科せられる条件を「やらされる」と受け身でとらえるのではなく、社会の要請することには最大限応えていく、というアクティブな発想が必要であり、それが「社会や顧客のための企業」という企業ポリシーを実践することだと思います。

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■滑走路誤進入、原因は人為ミス/シンガポール航空機事故

 死者81人を出した台北国際空港で起きたシンガポール航空機事故について、事故原因を調べている台湾の行政院(内閣に相当)航空機飛行安全委員会は3日、「事故機は、工事のため閉鎖されていた(右側の)滑走路で離陸動作に入り、事故を起こした」と発表しました。同委員会の責任者によると、現場から回収したフライトレコーダーのデータを解析したところ、事故機が通った経路が05R滑走路であることが確認されたといいます。またボイスレコーダーには滑走を開始した後の大きな衝撃音が記録されていて、これは同滑走路に置かれていた工事機械や車止めなどと衝突した音と見られています。「機長は滑走路を誤ったことに全く気が付いていなかった」という指摘もあり、なぜ滑走路を誤認したのか、今後の調査が待たれます。

 滑走路の誤進入は世界中で数多く報告されていて、主な原因は管制官とパイロットのコミュニケーションの問題だともいわれています。進入禁止のサインや障害物の設置とともに、管制官の監視も安全運行には欠かせないことをあらためて感じます。今年2月末に羽田空港で日本エアシステム機が供用開始前の滑走路に着陸したトラブルでも、機長、副操縦士ともに「最後まで現滑走路だと思いこんで着陸した」と話してることから、何らかの未然防止策が必要だと思います。禁止路に進入した航空機をセンサーでとらえ管制塔に警告信号を送ることは簡単で、その情報と現在の機体を目視で確認することで管制官から緊急停止指示を出すことも可能なはずです。いったい飛行場での安全対策はどのようになっているのでしょうか。「進入禁止のサインがあるから間違えるはずはない」と思っているのであれば、対策を講じるだけで見直しのない、また過去の事故を無視する誤った安全感覚というべきでしょう。

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■建設資材運搬が原因?/アルプス・ケーブルカー火災

 オーストリア・アルプスのケーブルカー火災では、動力源を持たないケーブルカーの火災、というショッキングな事故でした。煙突効果やスプレー式のワックスによる火の回りが早かったことも指摘されていて、狭いケーブルカー内からの脱出の難しさが想像されます。今後の事故原因の徹底的な究明が待たれますが、運転席の下から油圧装置の油が50リットル以上漏れていたという記事が出ていました。これが事実だとすると、レールとの摩擦による火の粉や熱がこの油に引火したのが直接の原因のように思われます。一方、ドイツ人犠牲者の補償交渉を担当している弁護士は23日、同ケーブルカーは事故の数ヶ月前に運行規則に違反して「大量の建設資材」の運搬に使われていたと述べ、これが車体や軌道の損傷につながり油漏れを引き起こした可能性が高まっています。

 これらが原因だとすると、多くの事故で指摘されるルール無視の“人の要因”が今回のケースでも当てはまるようです。事故原因を考えていくとそのほとんどが人災といえ、それが事故が無くならないばかりか同じ事故を繰り返すことの原因です。どの業種でもそうですが、安全技術としての機械ハード・ソフトの対応が進んでいますが、人のマネージメントができて初めて安全システムが完成する、ということを忘れないようにしたいものです。

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■ジェットバスで女児死亡/髪が吸い込まれて溺死


 東京都調布市の小学1年女児が9月、ノーリツが製造した「ジェットバス」で入浴中、水死する事故があったことが11日分かりました。女児は吸込口に髪を吸い込まれた状態で死亡していました。同社では同日夜の記者会見で、同型の浴槽約3万1,000台の吸込口カバーを交換することを明らかにしました。また同業8社も計約9万台のカバーを無償交換する方針で14日の新聞などで注意喚起しました。素早い対応で歓迎できるのですが、対象製品が各社とも5年以上前のものであり、現在の製品での発生がないこと、そして安全な吸込口カバーをすぐに提供できることから、どうやら各メーカーではこの種の事故を想定・あるいは経験していたようです。また、9月5日に福島県会津若松市でもノーリツ製ジェットバスで子供が死亡する事故が起きていたことが13日分かりました。 会津若松署の調べによると同日夜、同市内の小学1年の女児(当時7歳)が入浴中におぼれ、8日に死亡したというものです。家族によると、浴槽の底付近にある湯の吸込口に女児の髪が引き込まれていたというものです。

 2件の死亡事故から、原因は吸込口に髪が吸い込まれ結果と考えるのが妥当のようです。一般的にもジェットバスの吸込口は、子供が遊んで手でふさぐこともあり、過負荷状態での機械の性能面から運転停止などの安全装置が必要だと考えます。ましてや風呂に潜ったりする子供であれば、髪が吸い込まれることはメーカーとして当然想定できるはずです。「想定外」というのであれば、あまりにもお粗末な企業ということです。またコスト的負担のない対策がとれるのに、注意喚起だけで危険性を排除できると考えているのであれば、PL問題としての責任も問われなければなりません。

 ジェットバスの欠陥問題は12月に入りさらに広がり、通産省の緊急調査により90年10月以降に3件の死亡事故を含め、30件の事故が発生したことが新たに分かりました。品質問題でも多くの回収を余儀なくされた食品メーカーなどの例から、ユーザーに適切な情報を提供せず危険な製品を放置し死者まで出したジェットバスのメーカー・業界の責任は重いでしょう。また「急告」として新聞に掲載された11社の社名を見ると、名だたる企業ブランドが目に付きます。企業ブランドが安全や品質、そして信頼につながることでもあり、製品の属する工業会での横並び体質からブランドイメージが傷つけられるのを、企業はリスクとして感じているのでしょうか。どの企業も事故を未然に防ぐための情報提供や、旧タイプの吸込口の交換などができなかったということは、ユーザーの安全よりも業界内で“いい子”にしている方を選んでいるということです。また日立化成工業では無償交換を始めた吸込口が安全ではなかったとして、12月に入り急きょ再交換する失態を演じています。ずいぶんレベルの低い話でビックリしますが、企業の総合的なレベルではなく一事業部や担当者、あるいは特定の管理職の安全・品質ポリシーの問題なのかもしれません。

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■ファイアストンタイヤとフォード車の因果関係/ブリジストン中間報告

 リコールが進んでいるファイアストン(BSF)製タイヤが起こした事故原因は、フォードが「タイヤの問題」と繰り返すだけですが、ファイアストンの「フォードの低すぎた空気圧設定に原因」とする主張にも納得できるものがあります。車にとってはタイヤは一つの部品であり、タイヤの物理特性をどのように使うかは車両メーカーの大事な設計要素です。ブリジストンではタイヤとフォード車の因果関係を調べていますが、このほど中間報告がまとまり公表されました。調査はBSF自身が自主回収の対象とした「ATX」、「ウィルダネスAT」などに寄せられたクレーム情報や、同タイヤを装着した実車走行実験のデータなどを分析したものです。

 報告書によると、車両とタイヤの相互作用についてBSFがリコール対象のタイヤに寄せられた情報を分析した結果、クレームの約60−80%が後輪に集中、しかもその60%が左側に偏っていたといいます。さらに空気圧の変化とそれによるタイヤ側に発生する熱については、BSFが同社製タイヤを装着したフォードの「エクスプローラー」を実際に走らせて実験したところ、前後、左右の車輪にばらつきが認められ、車体側の加重配分によりタイヤの負荷がかかった可能性をうかがわせているといいます。このことから今回のタイヤ破損事故では、タイヤと車の加重との複合的な因果関係の究明が欠かせないようです。

 ところでグッドイヤー製のタイヤを装着した車が走行中にタイヤの接地面がはがれる事故を起こしていることに絡んで、米道路高通安全局(NHTSA)は21日、正式に調査に乗り出しました。同局によると、グッドイヤーの軽トラックやバンなど商用車に装着する「ロード・レンジE」のタイヤで事故が多発、15人の死亡と129人の負傷が関係しているといいます。事故の形態がBSFのケーと類似していることから、他のタイヤメーカーにも問題が広がりそうです。

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■JR6社、運賃表示ミス769駅/257駅で運賃取り過ぎ

 鉄道の運賃に誤りがあるなどということは考えたこともなかったのですが、JR東日本の運賃誤表示から始まった問題は11月末にはJRだけでも769駅、そのうちの257駅では運賃を取りすぎていたというのですからビックリです。同じように首都圏の私鉄や地下鉄などでも誤表示問題が明らかになりましたが、規模の大きさからJRの責任は重いでしょう。

 13日にJR東日本が公表した誤表示問題は、97年4月の消費税率引き上げに伴う値上げが発端だったということです。しかし利用者から電話が寄せられるまで同社内部で誤りに気が付かなかった、というのですから困ったものです。これはJR東日本以外の各鉄道会社も同様、価格という一番大事な品質要素の管理すらできない企業ということにもなります。「お客様へのサービス向上」、などのうたい文句は単なる標語でしかなかったのでしょうか。またJR西日本の対応も問題とされ、98年当時乗客の指摘で誤表示が判明したものの、公表しなかったため多くの過払いを生じさせたといいます。

 また申し出の客にだけ払い戻すという方法には、「お詫びの姿勢を感じることができない」とする人も多いようです。過去利用した鉄道について、正確に覚えていて申告できる客はごく一部であり、利用者全体に何らかの還元をすべきかもしれません。一定期間一律に料金を下げるキャンペーンや推測できる過払い金額を特別基金として、個々の駅の小さな改善など、利用者の意見を募ればいくらでもアイデアは出てきそうです。不祥事の反省を込めて利用者の利便性を図る提案を行うのが、謙虚な姿勢だと思います。一度行ったことはそのまま、決めたことは見直しをしないなど、品質を継続的に維持する努力を行っていない企業の実体が見えます。そういえば長野県の田中新知事が県庁視察の際、1年以上前の鉄道時刻表が掲示されていたのを見つけましたが、これも同じようなケースで、利用者が困っても何も感じない、という姿勢の表れです。

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■サンタ虐待CM放映取りやめ/米ソ二ー系企業

 24日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、ソニー傘下の米国ソニー・エレクトロニクスが、サンタクロース相手の残酷なゲームを内容とするクリスマス商戦用のテレビCMを取りやめた、と報じました。このCMは家庭用ビデオやオーディオ機器などをインターネットで販売している「ソニースタイル・コム」用のもので、クリスマス商戦が本格化する11月後半から始まる予定でした。内容は複数の誘拐犯が目隠しをしたサンタとゲームをし、無防備なサンタにタックルしたり、ゴルフのドライバーショットの目標にしているといいます。

 日本のテレビCMでは子供の情操についての配慮がほとんどないため、この程度の内容であれば全く問題ないのかもしれません。テレビゲームのシナリオも日本国内用と海外用では作り替えていることから、企業にも「子供に影響があるかもしれない」との認識はあると思います。しかし法律や業界などの厳格な規制・罰則がないのを良いことに、売るための手段を選ばず有害?CMを垂れ流しているのは困ったものです。メディアに関わる企業は、子供や青少年に与える影響について、諸外国と同じように気を配るべきです。製品についても各国の安全規制のため、国内向けより欧米向けの方が安全性が高くなっています。これではまるで日本国民を踏み台にして儲けている企業、という感じでしょう。

 そういえば先日のNHK番組「クローズアップ現代」では、子供がレーザーポインターで遊ぶことから視覚障害になる事故が相次いでいることを報じていました。番組では、国民の安全を守ろうとしない通産省の対応にも腹が立ちましたが、規制を新しく設けることは時代に逆行する、という愚かな役人が多いのでしょう。規制緩和の目的は、我が国に多かった不公平な既得権益を無くすことであり、国民を守る健康や安全に必要な規制は積極的に導入すべきです。

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■ホルムアルデヒド、住宅の半数で基準値越える/シックハウスシンポジウム

 住宅建材に含まれる化学物質が原因で起こるシックハウス症候群の対策などを話し合う「シックハウスシンポジウムin TOKYO」が19日、東京都内で開かれました。これは医師、科学者、弁護士などで作る民間非営利団体「シックハウスを考える会」が主催したものです。同会などが今年8月と9月、約100件の住宅で代表的な原因物質であるホルムアルデヒドの室内濃度を調査した結果が報告されました。それによると半数が厚生省の指針値を超え、症状を訴えている人の7割以上の人が、指針値を超える家に住んでいることが分かりました。厚生省のホルムアルデヒド室内濃度指針値は、0.08ppmで臭いを感じることが多く、0.4ppmで目がチカチカする、となっています。しかし個人差が大きく、また規制値がないため住宅メーカーの対応もまちまちで、購入後の家に住めない人や追加工事で内装をやり直すこともあるようです。

 さて長野県住宅部では昨年7月から始めたホルムアルデヒドの室内濃度簡易計測器の無料貸し出しが好評のようです。長野市の県建築住宅センターと県内3カ所の地方事務所に計測器を置き、希望する県民や県内施工業者に1回2週間まで貸し出しているものです。多いときには20人の待機者がでる人気で、今夏からはさらに3台の計測器を導入、12月からは5カ所の地方事務所で貸し出しができることになりました。個人で家具などを含めた総合的な室内健康環境を把握することが無料で行えるのは結構なことです。しかし家具やカーテン、じゅうたんなどを扱っている小売店やスーパー・デパートでは、実際の所どのように考えているのでしょうか。売場に入ると突然目がチカチカすることも多く、顧客や従業員の健康配慮からホルムアルデヒド濃度を測定してはどうでしょう。米国製の簡易計測器は1台約30万円ということです。

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終わりに

 遺伝子組み換えトウモロコシ「スターリンク」問題がクローズアップされ、政府の輸入農産物チェックの甘さが問題になっています。また「市販の加工食品からスターリンクを検出した」という市民団体の発表前から、政府では標本を調べスターリンクの混入の疑いを強めていたというのですから、いったい何をしていたのでしょう。日本は世界最大のトウモロコシ輸入国で、その95%を依存している米国の品質問題には及び腰なのか、それとも調査結果に自信がないのか、何か釈然としません。厚生省、農水省の管理技術の問題以前に、「国民の健康を守ろう」という、役人としての最低限の意識が無いのかもしれません。

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