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2001.3 No.87  発行 2001年3月10日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

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■脱線防止策、鉄道会社の半数実施/日比谷線事故受け

■ホーム転落の再発防止策/JR東日本

■米原潜との衝突で実習船えひめ丸沈没/米軍の安全管理は?

■携帯電池パック発熱・膨張/ドコモ、公表せず

■塩素入り牛乳だけでなく品質保持期限改ざん/北陸乳業

■生物種の絶滅問題など、異なるリスクを同じ尺度で換算/九大と横浜国大

■無料電話、三宅島の子供は使えず/東京都秋川高校

■マクドナルド最低評価/米ミシガン大の顧客満足度調査

■欧州での狂牛病騒動、拡大続ける


2月のニュースから

■脱線防止策、鉄道会社の半数実施/日比谷線事故受け

 昨年起きた営団地下鉄日比谷線事故から1年になりますが、国土交通省は26日、全国の鉄道会社138社が2001年度中に実施予定の再発防止策をまとめました。昨年10月、鉄道事故調査検討会が輪重のアンバランスが基準を越えないように管理することなど5項目を提言、同省では年末までに各社に再発防止計画を提出するよう指示していたものです。この結果対象事業者全てが@輪重管理、A軌道が平面になるよう管理、Bレールを新品のように研削、を実施するとしています。

 左右車輪にかかる加重のアンバランスについては、138社のうち半数にあたる70社が10%以内に抑える努力目標を設定、40社はより緩い20%の管理値を設定、JR6社を含む24社では「様々な種類の車両があり、10%に管理できるかどうか調査検討中」と報告しています。また脱線防止ガードは、事故直後同省が半径200メートル以下のカーブについて設置するよう指示したことから、すでに51社が総延長119キロメートルにわたって設置済みとのことでした。

 複合的な原因が絡んだ事故でしたが、各社の具体的安全対策が進められたことは評価できます。鉄道の安全対策では継続的な保守・点検が大きな要因でもあり、ルールがどの程度守られるのか、というマネージメントシステムに注意したいものです。

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■ホーム転落の再発防止策/JR東日本

 JR東日本は6日、山手線新大久保駅で3人が電車にはねられ死亡した事故を受け、首都圏を中心に線路に落ちた人が避難できる場所の確保、ホームに上がるステップの設置、非常停止装置の増設やホームでのアルコール販売の中止を検討することを明らかにしました。

 大塚陸毅社長はまた、新たな安全対策として1.転落検知マットの増設、2.夕・夜間のホーム巡回強化などを挙げ、さらに駅売店での酒類販売についても「長距離客が利用する駅では難しいが、それ以外は駅によって取りやめることもあり得る」と述べました。JR東日本では1月29、駅員の増員やホームでの禁酒などについては否定的な考えを記者会見で示していましたが、この日の内容から安全マネージメントについての踏み込んだ対応として評価できます。

 その後の16日、JR東日本と東日本キヨスクは東京都内のJR山手線、中央線快速、総武線の3線24駅のホームで酒類の販売を中止すると発表しました。これにより17日の営業開始からホームにある67店舗での酒類販売が取りやめることになりました。長距離列車でお弁当やビール・お酒を楽しみにする人の気持ちは良く分かりますが、通勤電車ではどうでしょう。電車を待つ間のホームや車内でアルコールを飲む人は、どう見てもアル中のような気がします。通勤のための移動手段と認識している周りの人の考える公共の場で、しかも車内の限られた空間ではとても違和感のあるものです。携帯電話で迷惑をかける若者やたばこの煙と同じように、飲酒も周りの人には迷惑なものでしょう。我が国では公共の場における個人の振る舞いには寛大(というか節度なしに許すことが多いのですが…)で、「お客へのサービス低下」という決まり文句の裏には「儲けを損ねたら困る」、という本音が見られるものです。今回のJRの取り組みは、公共と個人の許される自由度を考えるキッカケになれば、と思います。

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■米原潜との衝突で実習船えひめ丸沈没/米軍の安全管理は?

 マグロはえ縄漁実習船えひめ丸の沈没事故は、米原潜のとった行動から多くの問題点がクローズアップされています。連日の新聞・テレビ報道では、通常行うべき手順を踏まなかった原潜の不可解な行動が、軍の規律のゆるみと同時に民間人の存在の影響が大きいとの印象が示されています。艦長が使うソナー監視モニターが故障しながらの出航、事前にえひめ丸の存在を認識していたこと、民間人が浮力調整用タンクに空気を注入して浮上するレバーを引いた事実、潜望鏡での確認が80秒であったこと、えひめ丸の乗員救助に全く手を貸さなかったこと、などなど。これからも新たな事実がでてくることと思います。ところで事実の解明は重要ですが、そのために加害者の罰が免責される、というのでは遺族の人は納得できないでしょう。航空機など、技術的問題を含む重大事故では再発防止を最優先にして、原因究明のためには被告に真実を語らせる手法としての免責は納得できますが、今回のケースではどうでしょう。民間人のためのデモンストレーション航海という性格から、今回の事故はショーを演出する気持ちから安全配慮が行き届かなかった、となれば問題だと思います。

 民間人にしてみれば一生に一度あるかどうかの体験で、原潜の設備を見るだけでもわくわく状態でしょう。しかも操縦に何らかの関わりができるとなれば、ありったけの賛辞を送り軍人たちを嬉しがらせたに違いありません。おそらくある種の興奮状態が艦内にまん延していたと思うのが妥当ではないでしょうか。まさかアルコールの提供はなかったと思うのですが、それに近い興奮状態とも考えられます。

 米太平洋艦隊は一般民間人に防衛活動の理解を深めるため、潜水艦の体験乗船を頻繁に行っており、ハワイでは99年には計12回、278人の民間人が乗船、昨年は計13回、213人だったといいます。冷戦終了後、戦略的な役割を持つ原潜などの存在が本当に必要かどうかが問われているため、軍のPRには力が入るようです。莫大な税金を投入することへの批判をかわすため、一般国民への過剰なサービスに走ることも十分考えられます。
専門家からも「民間人の操舵が事故原因になったとは考えにくいが、艦の司令室が水中ショー気分で浮かれていたのではないか」との指摘が出ています。軍が起こす民間人を巻き込む事故では、事実関係がうやむやにされたり、被告が罪を感じず罰にも処せられない、ということが問題になりますが、今回は不本意な結果にならないよう望まれます。また、どのような心理的要因で事故が起きたのかを解明することは、厳しい規律・ルールに従うことが課せられた軍人でも(だからこそ?)、気のゆるみやミスを犯すことの検証でもあり、企業におけるリスクファインディングのヒントにしたいものです。

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■携帯電池パック発熱・膨張/ドコモ、公表せず

 NTTドコモの携帯電話で、電池パックが膨張し、電源が入りづらくなるトラブルが起きていることが5日、分かりました。同社は昨年9月に事実を確認したのですが公表せず、利用者から苦情があった場合だけ回収、無料交換していたものです。これまでの回収台数は全国で2,390個に上っているといいます。

 トラブルが起きているのは「P208」「P502i」の2機種の一部で、製造元は松下通信工業(横浜市)とジーエス・メルコテック(京都市)がOEM供給している製品です。両社の調査によると、昨年5月より前の数日間製造された製品中に、リチウム電池のパッケージが十分に溶接されていないものがあったようです。そのため空気中の湿気や水分が中に入り込み、電池の抵抗が大きくなり発熱・膨張するというものです。

 2機種の利用者にダイレクトメールを送るなど公表しなかったことについて、ドコモ広報部では「個数が少ないので告知するとかえって混乱を招くと判断した」としていますが、何の混乱のことなのでしょう。役人がよく使う「混乱を招く」という言葉を使い始めた企業の存在が気になります。回収することで自社の対応量が増えることを懸念するだけではないのでしょうか。新聞にニュースで掲載されたことの方が消費者にはよほど“混乱”させるものでしょう。ここで述べた混乱とは、企業に対する不信感であることは言うまでもありません。

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■塩素入り牛乳だけでなく品質保持期限改ざん/北陸乳業

 北陸乳業(石川県七尾市)が塩素剤入りの紙パック牛乳を出荷した問題で、同社は22日1999年秋から製造部長の判断で、加工乳など商品の品質保持期限日を1日長くするなど表示を改ざんしていたことを明らかにしました。

 石川県警は同日、保育園児が飲んだ紙パック牛乳の中味が無色透明な液体で、塩素成分を検出したと発表しました。石川県によると、同社が認証を受けたHACCPでは、加工乳の品質保持期限を製造日を除いた8日間としています。ところが塩素剤の混入した疑いのある加工乳は今月17日に製造され、県は25日期限の加工乳の回収を命令したものの、実際には17日製造の3商品の期限が26日、と表記されていることが分かり品質保持期限の改ざんが発覚したものです。ずさんな工程管理から塩素剤入りの牛乳を出荷しただけでなく、製造日が改ざんされていたというのですから問題は深刻です。厳格な品質管理をしない・いい加減な工程管理、というのは、顧客への品質軽視の考え方が根底にあると考えるべきでしょう。そのような企業体質の延長線上、つまり利益優先体質が製造部長の品質保持期限改ざんにつながっているようです。

 このようにHACCP認定工場での不祥事が相次ぐと、本システムがマネージメントシステムとして機能していないことが明白になります。HACCPの目的である安全・衛生を確保することが、「品質を作り込むポリシー」が欠落するために達成できない、しかもそのことが認定者には検証できない、というのでは困ります。認定者の「認定責任」を感じるべきです。あるいはHACCPの認証はISO9000認証を条件に行う、といったものでも良いかもしれません。しかし雪印事件や食パンでの製造日改ざん問題など、新聞をにぎわす多くの事件がありながら、自身の工場での教訓としないのはどういうことでしょう。食品関係では他でも同じようなことをやっているのでは、と疑う消費者は多いと思います。「見つからなければいい」という、犯罪者の抱く考えが個人・企業を汚染しているようです。

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■生物種の絶滅問題など、異なるリスクを同じ尺度で換算/九大と横浜国大

 九州大学理学研究院の巖佐庸教授、横浜国立大学環境科学研究センターの中西準子教授らは、土地開発による環境破壊や毒性化学物質など生物種の絶滅問題に対し、異なるリスクを同じ尺度で換算する手法を開発しました。科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業のプロジェクトで行われたもので、簡単な公式を使って、例えば「野生生物10万匹の集団の場合、化学物質によって世代当たり生存率が5%減少するリスクは、開発で生息地が50%減少するリスクに相当する」などの結果が得られるものです。化学物質汚染が防ぎきれない場合に、保護地域の面積拡大といった実践的対策がとれそうです。

 生物の存続リスクとして毒性化学物質にさらされたり環境破壊で生息地が減少したりする場合、これらの生物がすぐに絶滅するものではありません。しか固有生物の全体数が減少することから、遠い将来に予想される絶滅までの期間は短くなります。病気のまん延や遺伝子劣化なども同様で、これらリスクの大きさを「期待存続期間の短縮」という尺度で、同じ土俵に置いたのが今回の研究成果だといいます。その尺度では、「カノニカルモデル」という公式を使い、1.生物生息密度が低いときの生物増加率、2.通常のえさや水で何匹が生育可能かという環境収容力、3.干ばつ、病気などの環境変動の係数、など3つのデータで試算するものです。化学物質や生息地現象での調査データや仮定をこの公式に当てはめて、期待存続時間を計算します。通常のコンピュータシミュレーションでは、絶滅種ではない生物の場合、設定存続時間が長すぎて計算しきれないでいたといいます。

 化学物質は環境問題の認識の広がりで、その危険性がニュースなどで取り上げられることが多くなっています。しかし化学物質の汚染度を完全にゼロにはできないのが一般で、リスクとベネフィットを正しく評価する必要性が生じています。今回の手法は異なるリスクを客観的に分析できる有効な手段であり、消費者にも分かりやすいものであるといえます。リスクとベネフィットの問題では、先進諸国で使用禁止となっているDDTの例がよく説明されます。熱帯地方ではDDTが人の健康に及ぼす少々の影響よりも、マラリアの感染を媒介する蚊を駆除することが優先され、現在でも使用されています。熱帯地方ではマラリアに感染して死亡する人が年間100万人以上といわれることから、DDTのリスクとベネフィットを見る限り、妥当な判断といえるでしょう。このような異なるリスクを目的・対象に応じて客観的にとらえることができる今回の研究は、今後の活用が期待されます。

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■無料電話、三宅島の子供は使えず/東京都秋川高校

 伊豆諸島三宅島から避難した子供が集団生活を送っている東京都秋川高校で、NTTが設置した無料の「特設公衆電話」が業務用として職員室や三宅村教育委員会の部屋に置かれているため、子供達が使用できない状態が続いていることが3日明らかになりました。

 NTT東日本東京支店によると、この電話は昨年8月に設置申請があった14回線で、当初は有料だったものが9月に「全員避難」となった時点で、NTTが被災者用の特設公衆電話に切り替えて無料化したものです。NTTは9月12日、学校側に「本来、子供に親との連絡などで使ってもらう電話なので、そういう使い方をして欲しい」と申し入れたのですが、学校側は「特設電話は親からの問い合わせなどの受信用に使っている。無料電話を子供の側に置くと混乱する」などと答え、そのままになっているようです。子供達は現在義援金などから支給されたテレホンカードで有料の公衆電話を使っており、ボランティアらからは非難の声も上がっているといいます。

 NTTの善意の申し出を異なる用途に限定し、利益を得る立場の人が利用できない行為は搾取にも等しいものでしょう。子供だからといって「無料電話を子供の側に置くと混乱する」という考え方は、誤った管理の考え方でしかありません。「混乱する」が何を想定しているのか不明ですが、長電話をしたらいけないとでもいうのでしょうか。電話を待つ人に迷惑をかけなければ長電話も非日常的な避難生活のストレスや悩みをいやすもの、ということをなぜ受け入れないのでしょうか。子供は型にはめた規制やルールで縛るものだ、という学校現場の日常的な対応が見える気がします。このような考え方の人ほど、問題発生時には何も対応せず自己の弁解に終始する、つまり相手が何を望み自分が何をすべきかを考えない、自分の責任追及リスクの最小化を求める利己的な人であることが多いようです。学校などサービス業的な職種には不要な人材でしょう。東京都も、あきる野市も恥ずかしい学校を持っているものです。

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■マクドナルド最低評価/米ミシガン大の顧客満足度調査

 世界12カ国に2万8,000以上の店舗を展開するマクドナルドですが、ミシガン大学ビジネススクールが昨年末に行った顧客満足度調査では最下位の評価が下されました。この調査は米国の消費者5万人以上を対象とした各産業分野の企業計164社に対する満足度(100点満点)調査です。これによるとファーストフード部門10社の調査結果では、1位がピザチェーンのパパ・ジョンズ・ピザ(77点)、2位はピザ・ハットとウェンディーズ(ともに70点)が並び、ドミノ・ピザ(69点)、バーガー・キング(67点)、ケンタッキー・フライド・チキン(65点)、などが続き、マクドナルドは最下位の10位(59点)でした。日本では考えにくいのですが、米国では労働市場のひっ迫から、ファーストフードチェーン従業員の質が悪化し無愛想な対応をされることが多く、今回の満足度調査結果は業界への批判だともいわれています。

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■欧州での狂牛病騒動、拡大続ける

 欧州では狂牛病の問題から、食肉消費に大きな変化が生じているようです。フランスからは、パリの三ツ星レストラン「アルページュ」のメニューから全ての肉類が消え、子供の給食から牛肉が排除されるなど深刻な状況が続いている、とのニュースが伝えられています。ドイツの「ワニ・ダチョウ・カンガルー肉専門レストラン」、欧州全域の「スシ」、フランスでは監視が厳しいユダヤ人向け食品の「カシェール」などの人気が伝えられています。またギリシャの水産業が活気を帯び、欧州向けの地中海産水産物の約50%を担う同国にはイタリアやフランスなどでのシーフード需要の高まりから、出荷量の大幅な増加が見込まれています。

 狂牛病は羊の骨のくずを牛のえさに使ったことで牛に感染したと考えられていて、感染源とされる動物性飼料が過去に欧州から大量に輸出された事実から、「欧米アジアなど100カ国以上で狂牛病発生のリスクがある」との国連食糧農業機関(FAO)の報告も出ています。我が国ではあまり危機感もなく、牛肉消費の変化は無いようですが、お隣韓国では牛肉の消費量が落ち、肉牛価格の下落といった影響が出てきています。このため金大中大統領が牛肉料理をほおばって安全性をPRするなどが伝えられています。

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終わりに

 狂牛病と口蹄疫では両者が混同されやすいようですが、狂牛病は新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との関連性が疑われているもので、口蹄疫は人への感染はないと考えられています。また、狂牛病は細菌やウイルスによるものではなく、「プリオン」と呼ばれる蛋白質が悪さをするもので、煮ても壊れず調理は有効ではありません。過去に300万頭を越す狂牛病の牛が出荷されたとされ、新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を発症した人は100人足らず、ということから感染力は非常に弱いとされています。それでも消費者としてはあらゆる予防措置をしたいものです。

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