研究所


ENGINEERS誌1998年12月号

「21世紀の製品安全とPLPを考える」シリーズ

“わかりやすい”から“使いやすい”取扱説明書へ(3)

 今号では、“使いやすい”取扱説明書の企画・設計について述べてみたい。
一般に製品企画の段階で取扱説明書の仕様を決定することになるが、操作部の取り扱い情報(形、表示など)が分かりやすい製品では、取扱説明書を作る必要性から検討する。「取り扱い情報の全ては製品自体になければならない」という理想に対し、取扱説明書の必要性をレベル付けすることである。それは取り扱い情報の提供について、製品と取扱説明書での分担を明確にすることであり、その内容が取扱説明書の企画のほとんどを占める。個々の操作方法の説明を、製品、取扱説明書、あるいは両方で行うことを明確にし、製品・取扱説明書上での具体的な説明内容・方法を決定することになる。その結果、製品と取扱説明書の関係が“主”“従”から、同じ製品情報提供元となる。このことは製品、取扱説明書での説明を互いに補完する方向に働き、その結果ユーザーにとっての使いやすい操作環境が整えられる。「ユーザーの行動パターンをどのように想定するか」により取扱説明書のシナリオも変わり、それは取扱説明書の完成度に直接関わってくる。そこで取扱説明書の表現方法について身近な電気製品をイメージして考えてみたい。

 購入した製品が壊れていないか、正常に動作するのか、機能を発揮するのかなどはどのユーザーでも知りたいことであろう。これはユーザーの購入動機、つまり自らの選択が正しかったかを確認し、安心するためだと考えられる。製品の梱包を開けて、何が入っているかをまず確認し、製品本体、付属品、部品など一通り取り出すことになる。製品を取り出すときには、それとなく全体を眺め、自分が購入すべきものであったかの確認行動をとる。このときの取扱説明書の役割は、付属品・部品がどのようなものかを表現した情報であれば良い。

 次に自分一人で製品が操作できるか考え、操作できそうであれば付属の電池や部品を入れたり、電源につないだりするであろう。製品が大体動くようであれば壊れていないことが分かり、安心するのである。仮に製品がうまく動いてくれないときでも、製品をいろいろいじり、それでも対処できない場合に初めて取扱説明書を見ようとするのである。

 これらユーザーの行動パターンに対し、取扱説明書を読んでもらうタイミングがうまく合わないときにユーザーに危険な状況を生じさせたり、不利益を与える場合が出てくる。そこで製品上や梱包袋などに警告ラベルを貼り付けたり、ラベルをはがさない限り製品を取り出すことができないなどの対策をすることになる。

 ここでユーザーが回り道をして操作を習得することもまた不利益と考える必要があり、ユーザーがとりあえず行う操作(製品チェック)の手順をいくつか想定し、取扱説明書を参照しなければならない場面を洗い出し、それぞれの疑問や操作方法(解除方法)に素早く到達できるような構成が必要となる。つまり通常の順を追った説明に対し、飛び込みのユーザー行動に対応するレイアウトデザイン、ページ構成、キーワードやシンボルなどの見出しが大事になってくる。

 さて、トラブルシューティングと称して取扱説明書の最終章に「困ったときの対処方法」が記載されることがあるが、「電源コードがコンセントにつながっていますか?」などと記述している取扱説明書も多い。簡単な操作・設定ミスへの対処は取扱い手順の本文中に説明すべきである。使いやすい取扱説明書では、従来型の章の枠にとらわれない、ユーザー行動重視の内容とし、できるだけ取扱説明書を読む時間を少なくしなければならない。取扱説明書をできるだけ読んでもらいたいため、情報の有無・情報量などに関心がいくが、いかに少ない時間でユーザーに分かってもらえるかを考えなければならない。

 次にユーザーの操作が停止された状態を想定し、製品の特定部分・症状の識別(ボタン、表示、音など)に対応するキーワード、シンボル表記について考えてみたい。
ある症状、例えば「音が出ない」ことに対し、原因をユーザーに考えさせるのは適当ではない。前の操作を思い起こさせるため、「○○のランプが点灯しましたか?」「○○のボタンを触りましたか?」「今まで音が出ていましたか?」などあらゆるフローを想定し、設問を設ける必要がある。これは操作説明を逆にたどることでもあり、個々の場面における全ての操作の組合せの結果から導き出される。したがって通常の操作説明の手順の一部を利用することで、うっかりミスなどのトラブル時の対処ができるのである。イメージとしては子供の頃正月によく遊んだ「すごろく」のようなものである。スタートからゴールまでのステップ(操作表・チャート)に、サイコロの目と同じようなユーザーの割り込み操作が入るので、それに対処するルートを表現することである。紙に印刷して表現するので、ディスプレイによるオンラインヘルプのようなインターフェイスではなく、少々工夫が必要である。例えば操作説明の全ての手順をブロック化し、ユーザーの操作ミス別の薄いボード(操作説明の上にかぶせて、使える手順はボードの開口部から読めるようにし、隠したボード上には必要な手順を記載する)を必要枚数用意する方法もある。

 ユーザーの必要とする情報を素早く提供でき、しかもその説明が分かりやすければ、「この取扱説明書は使える」と感じてもらえる。その結果ユーザーと取扱説明書(企業)の信頼関係?が生まれ、本文中の注意書きについても「ためになる情報かも知れない」と読んでくれることにもなる。もちろん非常に危険な状態が予想される場合には、強制的に読ませるようなページ構成とするが、「製品に水をかけない」などの常識的な注意事項が多いと、重要な注意も読んでもらえない。ユーザーの知りたい情報をタイムリーに提供することは、操作説明であれ注意書きでも同様である。ユーザーが製品を安全に使用し、かつ機能を最大限引き出すことができれば、メーカー、ユーザー双方の利益でもある。したがって製品を上手に使用してもらうための使いやすい取扱説明書は、製品安全の立場からも必須の条件であり、企業の認識を新たにして欲しいものである。

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中澤 滋 ASP研究所代表
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