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新・信州人倶楽部


▲▲▲ 新・信州人倶楽部報 ▲▲▲



第30号

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〜私の飽食論〜

T.S

 飽食論と銘うつからには、どんな文明批評、もしくは南北論(『世界の半分は飢えている』等々)、グローバリゼーション批判、あるいは清貧論<余談だが、この−清く貧しく美しく−は21世紀生活の指針を一部に含み、首肯しうる点も多々あるけれど、ゲスの勘繰りでこの高名な著者の莫大な印税の行方が気になるのだ。寄付の話は聞かない。ま、それはさておき、今どきなんで金持ちの老人達(彼の愛読者の大半は老人と聞く)に、これ以上のケチ、貯蓄を奨めるのか、全くもって不分明だ>が、爆裂する、つまり、どんな迷論卓説が飛び出るやと期待される向きもないことはない(いや、全くない!)と思うので前置きするが、これは私事も私事、私の身を突如襲った、しかも繰り返し起きた、何とも面妖で当惑せざるをえない事件の話なのである。

 さて某年8月某日。正確さは記し難い。おそらく私は25〜27歳くらいか。人並みに夏休みを取り女房と弟を引き連れ、静岡県西伊豆の妻良へと海水浴に出かけた。妻良は漁港で海浜がない。連絡船で近くの小島の砂浜へ往復する仕掛けの変なところであった。一行が到着した午後にはもうこの便がなく、しかたなく誘われるまま海の釣り場(生けす)行きの船に乗った。釣り場についた。私は鯛は浅海にいないと確信していたから、やおらある秘術を用いた。と、たちまち2尺有余の真鯛を引っ掛ける。その力の強かったこと。漁師の目を盗み盗み釣ったのだが、引っかけてからはほとんど漁師の助けをかりたような記憶がある。むろん、私はこの秘術を直ちに弟に伝授した。すると、何と、弟も2尺有余の黒鯛を釣り上げた。ウマズラその他の魚もうじゃうじゃ釣れた。「明日はもう来るなよ」と漁師から脅かされた。余程の釣り巧者と思われたらしい。

 さてその夜、泊まった宿が仕出屋兼業の民宿で、おやじさんが腕をふるった。獲物は民宿中に分けたが、当方は主賓、大皿2枚の刺身、塩焼き、煮付け、酢の物、椀のものなど大量の鯛づくしが出た。結局、3人で四苦八苦、あらかた平らげた。翌朝の食卓に、また鯛が出た。今にして思えば、酒池肉林を顕現させたローマの貴族のように、吐いては食べ、食べては吐きをすればよかった。ところが、若いまだ健全な私の胃は見事これを消尽したのだ。それから帰郷して数日後、さる招待の末席に連なることになった。鯛が目の前にあった。その時である。予期しないハプニング、奇怪なアレルギー反応が生じたのは。まず嘔吐感、そればかりか心臓の鼓動がはや打ち、悪寒が走り、冷や汗さえ出る。まるで、つまらない夫婦喧嘩がたび重なって、「もうあなたの顔は見るのもイヤ」と妻がのたまい、あげ句の果てに離婚に至る、あれと同じである。鯛の顔、姿、色、艶、油ぎった臭いに触れただけで、もういけない。最大級の生理的悪寒にさいなまれるのだ。

 白状するのは沽券にかかわりイヤであるが、私がバカであることの証拠は以後この体験を2回繰り返したことに歴然としている。一度は、母の実家近く、静岡県天竜市在での鮎づくし。親戚の一人が近在きっての鮎取り名人であったことが災いした。鮎めしのお代わりまで頼んだのだから、ひどい。もう一度は、新潟県村上市在の妻の実家での鯉づくし。屋敷の池に大きな鯉が何匹も泳いでいる。この鯉の大盤振舞にやられた。
いずれの時も、鯛の時と同じ、絶不調に見舞われた。

 ここで、いささかの弁明を許されたい。そもそもは私が戦中・戦後の欠食児童であったことに端緒があるのだ。あの時代、子供達はおおかたいつも空腹であったし、お米は88たびものお百姓さんの苦労の賜物、一粒たりと粗末にするなと教えこまれてもいた。目の前に出される料理はきれいに食べおえる。−−のは、当時の私の習い、性であった。まして、先方が歓待の限りをつくして下された料理の数々、どうして残すことなどできようか。

 さて、かくして私は熱烈な思いこみ男と化し、徹頭徹尾、完全無欠のタイ嫌い、アユ嫌い、コイ嫌いとなった(全然恋嫌いにはならなかったが…)。

 すでにその時から幾星霜を経ている。私の頭も白くなった。生き恥多しとはつくづく思うが、時こそ「癒し系」の雄。時が何ごとかを癒すというのは本当なのである。今では、少量の、体調いかんでは普通の量の、鯛、鮎、鯉が食べられる。おいしい。しかし、あれ以来私は残念なことに、食に対して豪放磊落さを失った。

 私の得意分野は、1.フグ、2.ビフテキ、3.カキフライ、4.豚カツ、5.鮪の大とろ、6.毛ガニ、7.マトンといった安直なものだが、私はこれを腹八分目にとどめておく。おそるおそる食べている。だから、我が愛する内田百間先生のように好物のウナ重を1週間にわたり毎日食するという乱暴は、間違ってもやらない。

 この話はつまるところ、単なる食べ過ぎの話に過ぎない。このため、ここまで引っ張るのにやたら苦労したのだが、教訓がないこともない。
こういう快が不快に転じる、その過度、過剰さゆえに反転する現象は何も味覚に限ったことではない。何ごとであれ「過ぎたるは及ばざるが如し」であろう。しかし、私の結論はそうではなく、「逆もまた真なり」である。過剰の快が不快に転じるなら、過剰の不快は快に転じる。快を呼びおこす。この場合、極限の不快とは、飢餓、枯渇のことといえば、もうお判りだろう。

 今、世はグルメブームに沸き立つ。かしましい。テレビ、コミック、新聞、週刊誌、雑誌、本エトセトラ、これらが日夜、料理作り、料理探し、話題作りに奔走している。実は私も、安くておいしい店や食材を鵜の目鷹の目で求めている。泰平の世の、豊かさ、ありがたさなのだろう(戦争反対!)。しかしながら、こんな風潮に毒される必要はさらさらないのである。心を動かし、体を動かし、歩き、走り回り、汗をかき、渇きを覚え、腹を空かせる。これがグルメの基本形なのだ。その時、かかる時、何を食べてもとまではいわぬが、ほどほどの食物ならそれで充分。その味はきっと天下の美味、甘露だ。疲れ果てて山陰で汲む一掬の岩の清水のおいしさよ。



第24回例会のご案内


〜身近な山歩き 〜

M.S.

 今シーズン初の山歩きに、残雪の西穂高へ日帰りで行ってきた。6月上旬とはいえ登山道には未だ雪がびっしりと残り、その上、雪道の登山ルートがわかりずらいこともあって、夏道なら1時間少々のところを2時間以上かけて西穂山荘に到着。週半ばのウィークデーだったため、登高時には誰にも会わなかったが、山荘に着いて昼食をとっていると山頂方面から何組かのパーティーが降りてきてやっと人の賑わいができた。この時期は流石に年配のオバチャン軍団はいなくて、昭和30年代の静かな山小屋の雰囲気を思い出させた。
一休みして稜線に出る。丸山尾根から独標に至る尾根の雪はすっかり消えうせていた。天候は高曇りといった状況だったが、まずまずの展望で360度の山景を楽しんだ。中でも西に位置する笠が岳から双六岳に連なる山並みは見事で、残雪豊かな山肌が印象的だった。

 一人で写真を撮っている同年輩の人がいたので声をかけてみたら、岡山からやってきたとか。残雪期の北アルプスは初めてだそうで、雄大な景観にやや興奮ぎみだった。そして、明日は乗鞍まで足をのばす予定だと言っていた。遠くから来たんですからいい写真を撮っていってください、と伝えてわれわれは山をあとにした。

 下りはアイゼンでしっかりと足ごしらえをしたのと、上からはルートも見やすい為1時間20分で登山口にもどった。ケーブルで新穂高温泉におりてから車で平湯に出て、定番であるターミナルの3階にある温泉につかり家路に。朝7時過ぎに家を出て昼飯を雪の穂高で食べ、帰りには温泉につかって宵のうちに帰宅できる…なんていう芸当ができるのはこの地に住んでいる者の特権だといっていいでしょう。
 

<参考資料>


〜おいしい味を、少し〜


中澤 滋

 今回は手頃でおいしいランチ、ということで以前紹介した長野市の「そおだ」に再び登場してもらいます。もちろん!新しい発見があったからなのです。

割烹そおだ

 夫婦で5月に訪れたとき、“お値打ち”「そば定」というのが目に止まり、800円の「そば定」と1,500円の「お刺身定食」を頼みました。お刺身定食が先にきて、1,500円だから、それほど安いとは感じなかったのですが、特筆すべきはマグロの赤身がとてもおいしかったことです。いわゆるこくのある味で、正統派料亭の味でした。

 さて「そば定」がきてビックリ。いわゆる他の店でいう「天ざる」そのもので、加えて一品野菜の煮物が鉢で付いてきました。天ぷらの衣はカラッとして、合格。エビ、山菜、サツマイモ、ナスなど7品のボリュームもよく、エビ天が2つあったのも満足でした。これが何と800円なのです。そばの量もよく、味もまともで大満足だったのです。思わず板前さんに、「これはすごいですね」といったら、「お値打ちでしょ」と満足そうでした。日本中の800円の定食の中でもトップクラスの質だと思います。私は6月にも「そば定」を食べてしまいました。

 私が思うに、初めての方はまず「そば定」を、2度目以降の方はランチなどを頼んだらどうでしょう。長野では「そおだ」に立ち寄ることをお奨めします。電話は026-226-3362です。

 それから訂正があります。もう2年前になりますが、「よりましょ」18号のこの欄で紹介した東急インの「シャングリラ」ですが、実はその後すぐに訪ねてガッカリだったのです。「よりましょ」19号に述べた「…どこぞの申し訳程度の薄い刺身の海鮮丼とは大違いです…」は、まさに此処だったのです。Sさんの結婚式で東急インに行ったとき、訂正してなかったことを思い出しました。遅くなりましたが、シャングリラは「お奨めできないお店」、ということにしていただきたいと思います。



編集人から

 私のフィールドにしている矢橋の自然観察路で、例年行っている草刈りを梅雨入り前にしました。根を詰めると後がたいへんなので1時間の作業を3回行ったのですが、それでも指にまめができかけて、鎌が金属疲労で根本から切断。家から歩いて8分程度なので、汗もたっぷりかいていい運動でした。今矢橋ではホトケドジョウとカワモズクがよく見られる、ということを地元の自然観察員が話していました。クモキリソウも咲いているとのことです。近々散策しなくては…。

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