◆あしたの長野県農業を担う若人の集い◆
●経歴
私は小学生のころには姉と採卵かごをさげて鶏小屋を走り回っていました。そのころ家には、母が趣味で飼っていたヤギ、3頭の犬と2匹の猫、そして家業である鶏と、動物にまみれるように生活していました。
高校は姉と同じ通信制の高校に進学し、家で勉強しながら在学中も変わらず鶏を飼い、玉子を集め、夕方になれば家族総出で出荷作業に追われていました。
●就農動機
高校を卒業して、一度は違う仕事をしてみたいと、食品会社に勤めましたが会社の製品にアレルギーを起こしてしまい、あえなく1年で実家に出戻ってまいりました。
●家族
我が家の家族はちょっと理屈っぽいのが玉に瑕の父と、名実ともに太っ腹な母、朝が若干苦手な姉、それに私の4人です。
●両親の就農の経緯
両親は長く東京で会社務めをしていました。父は石油のパイプラインを設計する会社に勤め、自分の仕事が環境破壊につながるのではないかと危惧していたようです。母は損害保険会社の事務職をしており、事務処理が機械化されるなか苦労して、働きながら獲得した能力が、機械の圧倒的な処理能力の中に飲み込まれていく過程をつぶさに見つめていたと言います。
それで、人間は使い捨てにされていくだけでいいのだろうかと深い疑問を持っていたようです。父と知り合った時、農業は経験が重なると知恵となり、誰もがその能力を発揮できる機会を与えられるように思ったそうです。
結婚を機にサラリーマンを辞め、新規就農の夢をかなえようと長野に引っ越してまいりました。
私たちの住む阿南町は、長野県南部、下伊那郡の南端に位置しています。家の周りは山ばかり、ご近所と言っても200メートル以上離れた、携帯電話の電波すらも届かない山奥です。そこで、ふたりの子どもを抱えて、食べていかれる農業は鶏を飼って玉子を売る以外にないと、全財産をはたき、固い決意を持って本格的に専業農家となったのです。両親はどこにも研修に行ったこともなく、組織的な販売先もなく、ただ熱意と根気だけで今日に至っております。
●現在の経営
今、我が家ではボリス・ブラウン種という鶏卵用の鶏を1600羽飼っています。玉子が主な収入源です。我が家では自分たちで鶏に与える飼料を配合し、敷地内の井戸から汲んだ湧水を与えています。販売先は首都圏にお住まいの個人のお客様が九割、団体のお客様一割です。
和牛繁殖は2年前にはじめ、今は母牛が3頭に、子牛が2頭と極々こじんまりしたものです。
でも、自分で恵まれているな、と思っているところが一つあります。
私の友人で同年代の牛飼い2代目や3代目の方の中には、経営主である親が長い経験と豊富な知識を持っているあまり、後継者の自分は意見や考えを口にする隙も貰えないという人がいます。その点、我が家は誰もがド素人。皆で、無い知恵を出し合うほかありません。
思いついたことを、いくら突拍子のないことだと思ったとしても、誰はばかることなく言える。そういうところを、頼りないとも思いますが、いいところだとも思っています。
今後の目標は、頭数を20頭前後に増やすことや、堆肥舎の建設、一度は肉になるまで自分の牛を育てて、お客さまに食べて頂きたい、と言うのも大きな目標の一つです。
経営方針としてはいたずらに規模を拡大するのではなく、お客様にお届けするものは、家族の目と手と愛情の届く範囲で作っていきたいというのが、家族の考えです。
●通信・ブログの利用と充実
お客様に我が家のことを知って頂くために、鶏を飼い始めた20年前から2週間に1度「みたぼら通信」というものを家族で書いてきました。みたぼら、というのは我が家の屋号です。
現在493号。これを玉子と一緒にお客様にお送りしています。お客様には、手元に届いた玉子がどんな所で生まれたのかが分かっていいと、ほめて頂いています。そんなお客様のご愛顧のおかげもあって、年内には500号を迎える予定でおります。
通信に加え、もっと日々のこまごましたこともお伝えしよう、と今年の1月からはブログも始めました。通信やブログを通して、玉子のよさや家族農家の現実を知っていただきたい、というのが私たち家族の願いです。
●健全経営と社会貢献
ここ数年、畜産に欠かせない穀物は、市場に投資資金が流入したのと時期を同じくしてバイオ燃料の生産が隆盛になったことが重なり、価格が不安定で、特に麦やとうもろこしは高い水準のまま推移しています。
それに加え、今年口蹄疫が発生してしまいました。不安なことですが、お客様に変わらずおいしいと言っていただける玉子を作り、肥育農家の方によろこんでいただける子牛を育てるには、健全な経営状態が欠かせません。
そして継続した農業経営体として安心、安全な食品を消費者の方々にお届けすることが、広い目で見れば社会に貢献することなのではないかと、私は考えています。
●循環型農業の実現に向けて
農業者として、物を活かし、人も生きる。そこにある資源を使い果たしてしまったらおしまい、ではなく人間も動物も、自分たちの作ったものがめぐり巡ってまた自分たちの口に入るという大きなサイクルの一部になる。時間のかかる取り組みですが、自分たちの周りを見回して、出来るところから手をつけていきたいと思っています。今は私を含む若い年代の人々にとって失業の時代です。
しかし、いつまでも雇用されることを待つ人であり続けるのではなく、雇用を起こし食べていかれる経済基盤を自ら作れるような、そんな存在でありたいと願っております。
道遠しのようにも思うのですが、歩き続けることしか到達にいたる道はないのではないでしょうか。楽ではありませんが、楽しい農業を築いていきたいものです。
伊豆さんの農園、「みたぼら農園」のブログがありますので、良かったらご覧ください。
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