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2003.11 No.119  発行 2003年11月12日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

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ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

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ビル風で財産的損害/大阪高裁判決、住民勝訴

キューピー人形は一般的/東京高裁、運送会社に商標認める

三菱自、本社など捜索/脱落タイヤ直撃死傷事故で

原発から相次ぐ異物/東電、ずさんな現場管理

ミカンラベルに蛍光物質/三重・御浜のJA

温暖化対策の混合ガソリン/2012年度全国供給へ

病院の煙害深刻/患者や妊婦ら受動喫煙

食の現場、抗生物質乱用に警鐘



10月のニュースから

■ビル風で財産的損害/大阪高裁判決、住民勝訴

 高層マンションが建ったため、自宅が振動するなどビル風の被害(風害)を受けたとして、大阪府堺市の住民2世帯6人が建設・販売した丸紅や竹中工務店などを相手に、 総額約9,100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が28日、大阪高裁でありました。

 武田多喜子裁判長は「風環境の変化により、原告は自宅の価値が下がる財産的損 害を被った」として、一審の大阪地裁が命じた計420万円の損害賠償に加え、さらに 約1,500万円を賠償するよう命じる判決を言い渡しました。

 ビル風による財産的損害が認められたのは初めてで、原告側代理人は「画期的な判 決」と評価しています。

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■キューピー人形は一般的/東京高裁、運送会社に商標認める

 キューピー人形の絵を商標として使用してきた運送会社が、マヨネーズ大手「キュー ピー」の請求で運送会社の商標登録を無効とした特許庁の審決取り消しを求めた訴訟 の判決が29日、東京高裁でありました。北山元章裁判長は「両者の商標は容易に識別 可能で業務分野も異なり、混同の恐れはない」として審決を取り消しました。

訴えていたのは、「キューピー引っ越しセンター」名で引っ越し業務を行っている東 京都調布市の運送会社「荒牧運輸」です。判決によると、同社は1978年頃から、キューピー人形が両手に手荷物を持ってタイヤの上を歩いている絵柄を商標として使用し、97年に商標登録しました。

北山裁判長は
1. キューピー人形はもともと、米国の画家が雑誌に描いた絵がモデルで、30年代半
ばから日本でもセルロイド製玩具などで広く親しまれてきた
2. 他の複数の企業も同人形をモチーフにした商標を登録している

などを踏まえ、「キューピー人形がキューピーとだけ関連づけられるものとして一般に広く知られているとは到底言えない」と指摘しました。

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■三菱自、本社など捜索/脱落タイヤ直撃死傷事故で

 横浜市瀬谷区で昨年1月、走行中の大型トレーラーから外れたタイヤで直撃され、母 子3人が死傷した事故で、神奈川県警はトレーラーの車軸とホイールをつなぐ部品 (ハブ)の欠陥が事故原因だったとの疑いを強め、24日午前、トレーラーを製造した 三菱自動車工業の本社など3カ所を業務上過失致死傷容疑で家宅捜索しました。

同社では大型車のタイヤ脱落が相次いだことから事故後には無償点検を行い、約1割 にハブの異常摩耗が見つかったことを明らかにしています。また同社は「整備不良が 原因」として部品の欠陥ではないことを強調していました。しかし1992年から横浜の 事故まで、ハブの破断による事故は30件も起きていて、また1999年に島根県で起きた 高速バスのタイヤ脱落については、同様のトラブルが相次いでいたのに「同種の苦情はなく、多発性はない」と当時の運輸省に報告していたことも判明しています。同社ではリコール隠しで2000年に強制捜査を受けましたが、島根の虚偽報告を考え合わせると、今回の家宅捜索でもトラブル隠しの疑いが拭えません。

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原発から相次ぐ異物/東電、ずさんな現場管理

 定期検査中の東京電力の各原子力発電所で圧力抑制プールの中から異物が相次ぎ見つかっています。

 東電は9日、福島第1原発2号機の圧力抑制プールの水中で、直径5センチ、長さ1.5メートルの足場用パイプや針金、シートなど39個の異物を発見したと発表しました。これを受けて他の原発も調べたところ、14日までに3原発6基で計40個の異物を発見したといいます。その後も柏崎刈羽原発1号機や福島第2原発4号機で18日までに7個以上が見つかったといいます。

 圧力抑制プールは原子炉格納容器下部を取り囲む形で内部に水を貯えるもので、格納容器の圧力上昇時に圧力の逃し場所になるほか、原子炉内の冷却水が失われたときに作動する非常用炉心冷却装置(ECCS)の予備水源にもなるものです。このためプール内に異物があると、万一の場合にECCSへの水の供給を妨げる可能性がある重要な設備です。

 しかし9日発表した福島第1原発2号機の異物は、9月17日に見つかった長さ20センチの針金で、福島県への報告を3週間も送らせていたことになります。東電は「報告義務のある事案ではなく、現場からの報告も遅れたため」と釈明しています。原発の安全性や信頼を考えるときに、報告義務のある設備とそうでない設備の基本管理システムは同じとし、個々の重要度に合わせた基準を適用すべきものだと思います。そのような基本管理システムに欠陥があることから、今回のように報告義務がない箇所での異物回収、という無駄が発生する訳です。これらの無駄が全く電気料金に転嫁されないとは考えにくいことから、東電の釈明は顧客満足を軽視するものだと思います。

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ミカンラベルに蛍光物質/三重・御浜のJA

 食品衛生法で添加物として認められていない蛍光物質を含んだ紙ラベルを同封したミカンが、三重県御浜町のJAみえ南紀を通じて出荷されたことが分かり、同農協は店頭に並べられたミカンをいったん引き上げるなど、ラベル約1万枚を自主回収しました。

 名古屋市が6日、同市内のスーパーで抜き打ち検査したところ、ラベルから蛍光物質を検出、検査結果を15日、三重県と厚生労働省に通報したものです。三重県は同日、同農協にラベルの回収を指導、農協では店頭のミカンからラベルを取り出し、ミカンだけ再び店頭に並べました。

 食品衛生法は食品添加物以外の物質が直接、食品に触れたり、包装・容器などの器具に用いることを禁じていますが、「ミカンは皮をむいて食べるため、中身と直接触れないラベルは器具には当たらない」と市に返答したため、同農協では「ミカンに安全に問題はなかった」としています。

 しかし厚労省の安全に対する見解はおかしく、日本消費者連盟の水原博子事務局長は「皮をむいた手でミカンを食べるのに、何が安全なのか。法を厳しく解釈して適用して欲しい」とコメント、名古屋市食品衛生課も「厚労省の言い分には釈然としない部分もある」と話しています。

 法律の運用には文言の解釈が大きく影響しますが、実体を把握しない役人による硬直化した考えが適用されることが多いものです。今回もミカンを食べるという、日常の光景を理解できない同省の鈍い感覚が明らかになりました。安全問題ではもっと柔軟に“もの”の置かれる環境や、人の行動を考えてもらいたいものです。

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■温暖化対策の混合ガソリン/2012年度全国供給へ

 環境省は10日、地球温暖化防止のためトウモロコシなどを原料とするバイオエタノール(アルコールの一種)を混合したガソリンについて、2012年度をめどに全国の給油所で供給できるよう普及を目指す計画を決めました。

 バイオエタノールが燃焼してできるに酸化炭素(CO2)は原料の植物が大気から吸収したものであることから、温暖化の原因となるCO2排出量には算入されないため、普及すれば温暖化対策に役立つとされています。

 バイオエタノールはトウモロコシやサトウキビが原料で、ブラジルでは1970年代から自動車燃料に利用されています。また米国でもバイオエタノール10%混合ガソリンがガソリン販売量の10%を占めていて、中国やタイ、オーストラリアなどでも導入する動きがあります。

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■病院の煙害深刻/患者や妊婦ら受動喫煙

 患者や妊婦らも多く利用する病院内の飲食店、通路でのタバコの煙害調査で、法定基準を上回る粉じん濃度が記録されたことが東大と産業医科大学のグループの調査で分かりました。

 調査は8月から10月にかけて、首都圏の大学の付属病院10カ所で、「院内の飲食店の禁煙状況」「喫煙室の密閉制」について行ったものです。それによると、喫煙室がある店でも多くは分煙が不完全で、込み合う時間は一般の飲食店と同様の高い粉じん濃度で、タバコを吸う場所が限られる病院では院内の飲食店が喫煙所代わりになることが多いといいます。

 多くの病院では分煙に移行していますが、院内に喫煙室が在るもの、院外にあるもの様々です。喫煙室がドアで完全に空気で遮断されていても、人の出入りのたびに廊下に煙が漏れてしまい、ドアがなければ煙漏れはさらにひどく、法定基準(1立方メートルあたり0.15ミリグラム)を上回るところもあったといいます。中にはストレッチャーに乗せられた救急患者がたばこの煙の中を運ばれるケースもあったといい、分煙の徹底が行われていない実体が見えます。

 院外に喫煙スペースがある場合でも、入り口近くに設置されていることが多く、人の出入りにより自動ドアが大きく開き、大量の煙が外の風に運ばれて院内に入ることもあります。また休憩用のベンチのあるところには灰皿がある、ということも多く、非喫煙者が休む場所がない、などといった弊害も見られます。今まで灰皿のあった環境をそのまま移動する、ということではだめで、煙害にさらされる非喫煙者の立場を配慮すべきでしょう。「取りあえず責任を果たしました」といった対応が多すぎます。

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食の現場、抗生物質乱用に警鐘

 食品の安全製などについて考えるNPO法人・日本子孫基金の小若順一事務局長らは「食べ物から広がる耐性菌」を出版、食の現場に広がっている安易な抗生物質の使用に警鐘を鳴らしています。同氏によると、「抗生物質の乱用が耐性菌出現の原因で、一般的に医療現場での利用が多いと思いがちだが、同基金が国内の抗生物質の年間使用量を調べたところ、病院で使われたり薬として処方されたりするヒト向けの医薬品が約500トンだったのに対し、牛など畜産現場で使用されるものが約900トン、養殖が200トン、農産物が約100トンだった」と話しています。また「医療現場より多い抗生物質が利用される食の現場を通して、例えば、家畜の体内にいる菌が抗生物質に抵抗力を持つようになり、それを食べた人間に悪影響を及ぼすことで、実際欧州ではバンコマイシン耐性球菌が食肉から人間に感染した事例が確認されている」とも指摘しています。

 ところで抗生物質などの飼料添加物についての効果ですが、「有害な細菌を抑制し成長を促進する」といわれるものの、科学的にはまだはっきりしていないというのです。安全性や効果もはっきりしない配合飼料ですが、利益を追う業者・団体の宣伝に躍らされているようです。

 食の安全というのは、生産者の飼育・栽培環境を見ることで始めて安心と信頼が生まれるものです。「いまの世の中、気にすれば食べるものなど無くなってしまう」という人がいますが、安心・安全の食品は「美味しい」という別の側面をもっと重要視すべきかもしれません。消費者が食の素材にいっそうの関心を持つこと、これが効率化で突き進んでいる業者・生産者をけん制する術ではないでしょうか。

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終わりに

 今年のASPニュース117号で紹介しましたが、温泉の偽証表示問題で関係者の議論が沸いているようです。旅行会社各社では、虚偽表示を行っていた愛知県の吉良温泉の予約キャンセルが1カ月で約2,700件に達し、その後もパンフレットの吉良温泉のページに「温泉」の文字を隠すシールを貼ったり、各地の温泉を特集したパンフから削除するなどの対応を強いられたといいます。

 しかし町側には、温泉街に掲げた「吉良温泉」の看板を下ろす考えが無いというのですから困ったものです。それも今の制度では、泉質や効能をうたっていなければ、水道水を沸かしたお湯を「温泉」と名乗っても不当表示とは言い切れない、という制度そのものの問題があるようです。それにしても吉良温泉は強気です。大きな風呂屋が並んだ観光地、という一風変わった産業が成り立つとでも思っているのでしょうか。業態を変えて大規模なヘルスセンターにでもすればまだしも、今後どうなるのか興味があります。

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