“使いやすい”取扱説明書の企画・設計手法

ASP研究所 中澤 滋




 我が国ではPL法の施行を境に取扱説明書に関心が集まったが、多くの取扱説明書では警告・注意表示だけが注目され、製品操作のための説明内容の質を高める努力を怠っているものがある。たしかに過去の取扱説明書では注意書きの表記が非常に少ない製品もあり、どの製品でも注意書きが記載されるようになったのは好ましいことではある。しかし「PL問題が発生したときのためには、まず注意書きを充実しなければならない」とする“対策”が各企業でとられた結果、免罪符としての「PL対応取扱説明書」があふれてきたのである。しかしPL法対策が一段落した後、取扱説明書の本文の“質”を省みない企業が多く、相変わらず本文が分かりにくい取扱説明書が多いと言うことはどういうことであろう。製品を売る前の努力と事故が起きた後の対策はできても、製品をユーザーが使用する場面ではCS(顧客満足)など考えてもいないようである。ユーザーに製品を満足して使ってもらうことは、製品作りの醍醐味でもあり宣伝効果も期待できるのであるが、営業成績など直近の分かりやすいデータを重視し、市場で使われている自社の製品・ユーザーのことは二の次なのかもしれない。

 製品を市場に提供する企業の社会的責任として製品責任を求めたのがPL法であり、製品に起因する不具合によりユーザーに不利益をもたらすことの無いよう努めることが企業に求められている。ユーザーにとっての製品の善し悪しは、製品購入後・使用中に初めて明らかになるもので、製品出荷台数も大事なデータであるが、「現在製品を使用している」というデータを重視する必要がある。企業間の技術レベルに顕著な差が無くなっている現在、ユーザーが購入する製品は見た目のデザインとカタログ記載の性能に偏っている。したがって購入後「こんなはずはなかった」と悔やむ者もいるだろうし、使い勝手の悪さに呆れながらも「自分で選択した製品」の後ろめたさからしょうがなく使っているものもあるだろう。「製品を生かすも殺すも取扱説明書」とまでは言えないが、CSをより高めるための重要なファクターであることは間違いない。つまり取扱説明書は、製品とユーザーの橋渡しをするインターフェイスとしての役割を持つからである。今回は現在の取扱説明書の問題点を整理し“何のための取扱説明書か?”を探り、そしてこれからのCS対応の取扱説明書制作への取り組みについて述べてみたい。


1.取扱説明書の目的

1.1取扱説明書の目的
1.2対象ユーザーの設定と伝えたい情報

2.取扱説明書の評価とは


3.取扱説明書の問題点

3.1ユーザー心理との食い違い
3.2事例検証
(1)安全上の注意
(2)表記上の問題
(3)事例
(4)雑誌テストレポートより

4.わかりやすい取扱説明書とは

4.1用字・用語表記スタイル
4.2製品と取扱説明(書)、思考の一体化

5.ユーザー行動とリスクファインディング

5.1ユーザー行動・メンタルモデルの把握
5.2プロトコル分析による製品および取扱説明書の評価
5.3リスクファインディング手法

6.使いやすい取扱説明書へ

6.1拡大SHELLモデルによる解析事例
6.2製品企画・設計時のPI要素の整理
6.3場面設定とシナリオ作成のポイント
6.4ナビゲーションシステムの問題


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